いくつかの治療法のなかから、さまざまに組み合わせて
更年期障害は、治療すればずいぶんらくになるものです。それをがまんして不調のままでいるというのは、生活の質を著しく落とすことになります。
治療法は大きく分けると4つあり、多様な更年期障害の症状に合わせ、さまざまに組み合わせて治療します。
・ホルモン補充療法
・漢方療法
・その他の薬物療法(精神安定剤・抗うつ剤・自律神経調整剤など)
・心身医学療法など(カウンセリング・自律神経訓練法・アロマテラピー・マッサージ・リフレクソロジーなど)
ホルモン補充療法(HRT)(Hormone Replacement Therapy)
基礎知識
更年期障害の起こる原因は大変複雑で、エストロゲンの急激な減少をきっかけに、その人を取り巻く環境や気質がからみあって起こるといわれます。
ホルモン補充療法とは、そのうちのホルモンの不足で起こる症状に対しての治療法です。不足した女性ホルモンを外から補い、ホルモンのバランスを調整することで治そうというものです。
一般的に、のぼせ、発汗、動悸、イライラなど、自律神経失調症状(自律神経と自律神経失調症)、また不眠、うつ(うつ病)、性器の萎縮、尿失禁などの症状に効果があります。
HRTの現況
HRTが世界で最初に認可されたのはカナダで1941年のことでした。翌年にはアメリカで認可され、以後、欧米では更年期を迎える女性の半数近くが使っているといわれます。
日本では、からだの外からホルモン剤を入れるということに対する抵抗感や副作用へのおそれが強く、欧米ほど広まりませんでしたが、現在では、のぼせ、発汗、腟の萎縮などの更年期障害には非常に有効ということと、骨粗鬆症や動脈硬化(動脈硬化症)などの生活習慣病の予防にも効果があるということが知られてきて、普及しはじめたようです。
2002年にアメリカで、乳がんなどのリスクが高まるということで治験が中止されるなど、情報が混乱したので、日本産婦人科医会など3団体は、つぎのような見解を提示しています。
(1) エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)を併用している患者さんは、乳がんなどの定期検診を十分に行いながら続行する。
(2) 心筋梗塞、狭心症、大腸がんなどの予防のために併用療法を開始するのは、妥当ではないと考えられる。
(3) 更年期障害に対しては、メリットが上回ると考えられる。それでも十分に情報交換をし、話し合って決定する。
HRTの投与方法のいろいろ
HRTにはつぎのような方法があります。医師と相談のうえ選びましょう。
●子宮のある人は、ABCのどれか
A エストロゲン、プロゲステロンを連続併用する。約半年は不正出血が多い。閉経後5年以上たった人にお勧め。
B エストロゲンを21~50日周期的に服用、または貼付して、5~7日の休薬期間をつくる。休薬の前10~12日間は、プロゲステロンを併用する。エストロゲン服用期間については、子宮内膜の肥厚状態により異なるので医師と相談する。この方法が全体としてホルモン量がいちばん少なくて、ほかと同等の効果がある。
C エストロゲンは連続服用、プロゲステロンは周期的に10~12日間服用。BCともにプロゲステロン終了後、3~4日して月経様の出血がある。
●子宮摘出後の人は
エストロゲンだけを連続して飲む、または皮膚に貼付する。
効果と利点
●のぼせ、発汗には抜群の効果があります
いわゆるホットフラッシュといわれる、のぼせ、発汗などの更年期障害の代表的な症状には、HRTはとてもよく効きます。こうした症状は命にかかわる病気ではないので、がまんしてしまう人が多いのです。しかし、ホットフラッシュがなくなることにより、不眠などの訴えも減り、生活の質を上げることができます。
つぎに効くのは、腟や下部尿路系(とくに尿道と膀胱三角筋)の萎縮性変化の改善です。粘膜のコラーゲンが減って皮膚粘膜が薄くなると、腟炎を起こしたり、性交痛で苦しんだりしがちです。女性ホルモンはこれらに非常に効果があり、性交もスムーズになります。尿失禁の悩みも軽くしてくれます。
また全身のコラーゲンをふやしますから、肌がきれいになったり、頭髪の質がよくなるともいわれます。
●ほかのいろいろな病気の予防ができます
これまでの研究で、HRTの予防効果が確実に証明されているのは、骨粗鬆症です。エストロゲンには、骨量を維持し、骨からカルシウムが消失するのを抑制するはたらきがあるので、骨粗鬆症の予防ができるのです。
また、欧米で行われた各種の調査では、HRTを使っている女性は心臓病で死亡するリスクが40~60%下がることがわかっています。エストロゲンによって、善玉コレステロールがふえ、悪玉コレステロールが減ることが、その理由です。しかし、別の調査ではそうではないという結果がでているものもあり、断定はできません。
そのほか味覚が落ちたり、口の中が乾くといった高齢女性に多い口腔内のトラブルの改善、視力の維持に効果があります。アルツハイマー病や認知症の予防にも効果があるという報告があります。
気がかり
副作用についてはよく知っておくべきですが、そのデータをだすには相当な年数が必要です。ほかの病気の予防効果についても、個々の栄養や運動といった基本的な生活習慣の影響もあるので、是非の判断はむずかしいといえます。きめ細かいインフォームド・コンセントを受けましょう。
●子宮体がん(子宮がん)は減少します
エストロゲンは、子宮内膜を増殖させるので、単独投与の時代は子宮体がんの発生率が上がりましたが、プロゲステロンの併用で、現在ではHRTを受けている女性のほうが、受けていない女性より子宮体がんになる危険性は少ないとわかっています。
●乳がん発生のリスクは、まだ不明です
乳がんについては、まだ、定まった統一見解がでていないのが現況です。米国ではHRTは乳がんに対するリスクが高いとする発表が2002年にありましたが、その後その研究結果に疑問があるとの発表もなされています。また、日本においては乳がん発生年齢のピークが40代と閉経前にあり、閉経後に受けるHRTの影響は少なく、無視しうるとの研究結果もあります。より安全を期す意味でも、HRTを受ける場合は、乳がんに対する自己チェック(乳がんの自己診断法)と定期検診を欠かさないようにします。
●最終的な決定は、自分でよく考えて行います
HRTを受けるか受けないかは、メリット、デメリットをよく考えて、自分で決めましょう。人に決めてもらおうという姿勢ではなくて、自分のからだのことを自分で考え、決めるということがたいせつです。
乳がんがふえたという報告も、普通1000人に1.3人ぐらいの発生率であるのが、10年間飲んで1000人に1.5人になったというものです。そのふえ方の程度をどう感じるかは個人の判断です。この数字を不安に感じる人もいれば、これをふえたとは感じない人もいます。
つらい症状をまずHRTで解消し、その後の利用法はゆっくり考えるのもよし、また、ほかの病気の予防も考えつつ利用するもよし、人それぞれです。受ける受けないをいたずらに悩みつづけ、つらい症状のまま時間だけがすぎていくという事態は避けたいものです。
HRTを受けられない人
HRTは、受けられない人、また受けるときに注意が必要な人がいます。医師に相談して選びましょう。
受けてはいけない人
妊娠中やその疑いのある人。乳がん、子宮体がん(子宮がん)の患者さん、既往者。血栓症、塞栓症の既往者。心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性疾患の既往者。脳卒中の既往者など。
注意の必要な人
子宮筋腫、子宮内膜症、コントロール不良な高血圧の患者さん。インスリンを必要とする糖尿病の患者さん。慢性肝疾患の患者さん。肥満者。60歳以上または閉経後10年以上の新規使用。片頭痛のある人。てんかんのある人。胆嚢炎・胆石症の既往者。重い高トリグリセリド血症のある人など。
漢方療法
基礎知識
からだと心を区別して考えない漢方では、「血」は西洋医学でいう「血液」とちがい、からだ、精神、感情までも含めた広い範囲を意味します。「血」のめぐりが悪くなった状態を「お 血」といいます。つまり「お 血」という状態にも、精神・神経面や感情面も含まれているわけです。月経痛など、月経にまつわる女性特有の諸症状も、漢方では「お 血」によるものと考えます。
更年期は閉経の前後、およそ10年間をさしますが、この時期はホルモンのバランスのくずれにともない、からだや精神・神経面にさまざまな症状が現れます。こうした更年期障害も、漢方ではおもに「お 血」によるものととらえられています。
漢方治療の基本は、漢方薬の内服です。しばしば鍼灸治療が有効なこともあります。また、うつ症状(うつ病)など心の症状が強くでるケースでは、西洋薬と併用することも少なくありません。
効果と利点
漢方治療は「お 血」を取り除き、からだのバランスを整えるので、更年期にみられる不定愁訴(更年期に気をつけたいからだのトラブル・病気)の治療に効果があります。適切な処方であれば、効果は比較的早く現れます。
また漢方薬は女性ホルモンに直接影響しないので、ホルモン補充療法(更年期障害の治療法のいろいろ)で気になるリスクのことなどを考えないですむのも利点です。さらに、その人の症状に合った薬を処方するので、メインの症状だけでなく「かぜをひきにくくする」など、ほかの症状も改善される可能性があります。
注意点
胃腸の虚弱な人が漢方薬を服用すると、胃もたれなどの胃腸障害を起こす場合があります。また、人によっては漢方薬でもアレルギー性の薬疹が出ることもあります。ただその頻度は低く、一般的には服用をやめれば、すみやかに改善します。漢方薬といえども薬ですから、副作用があることを認識しましょう。
また、漢方薬で症状がよくなると、婦人科の診察をしなくなる人がいます。閉経以降の年齢は、とくに子宮体がん(子宮がん)が起こりやすいといわれています。婦人科の診察も定期的に受けるようにしてください。
服用の方法
自分の症状に合った漢方薬を処方してもらい服用します。一般的には「お 血」を改善させる薬をおもに使いますが、なかには「肝」を治す「抑肝散」や不安感、不眠、抑うつ気分、のどがつまる感じ、胸苦しいなどの症状が現れる「気うつ」を治療する「半夏厚朴湯」でよくなる人もいます。
食べ物のアドバイス
更年期障害では、顔が急にカーッと熱くなり、足がスーッと冷える「ホットフラッシュ」が多くみられます。本質的にはからだが冷えている状態ですから、からだをあたためる食べ物をとるように心がけてください(冷え対策5つのポイント)。
その他の薬物療法
心の不調は、受診して適切な薬を飲むことにより、改善されることも多いものです。心の不調に気づいたら、早めに受診しましょう。
●精神安定剤
イライラや不安など、心の症状の治療に必要な薬で、精神科だけでなく、内科、婦人科などでも処方されます。
効果も副作用も、人それぞれですので、医師とよく話し合い、勝手にやめたり、量を減らしたりせずに、医師の指示どおりに服用しましょう。
●抗うつ剤
うつ病や、うつ的傾向が強まったときに処方されます。うつ症状のときは倦怠感、疲労感、無気力感が強く、なにをしても楽しくないと思ったりします。自分がいたらないからと落ち込んだりする人も多いものです。
うつ症状は、更年期によくみられる心の病気です。うつは「心のかぜ」と形容されることも多く、現代社会では、めずらしい病気でもありませんし、はずかしいことでもありません。薬でよくなりますので、こじらせないうちに早く治療を開始し、慢性化させないことが大事です。ひとりで悩んでいないで、なるべく早く医師と話し合い、解決しましょう。
●自律神経調整剤
更年期の不定愁訴(更年期に気をつけたいからだのトラブル・病気)の多くは、自律神経のバランスがくずれることで起こります。自律神経を興奮させる交感神経とそれを鎮める副交感神経の両方に作用して、それぞれが過剰に反応しないように調整します。
日常生活に影響するくらいひどい症状は、いつまでもがまんせずに婦人科、精神科、心療内科などを受診し、薬を処方してもらったり、ほかの方法も含めて医師とよく相談しましょう。
心身医学療法など
薬では治らない心の問題は、カウンセリングを受けたり、セルフコントロールの訓練をして自分なりの解決法を見つけます。また、からだや心をリラックスさせるのも効果的です。
●カウンセリング
更年期は、人生の折り返し地点です。もう若くないのだという老化への不安から、人生に対して消極的になったり、むなしい気持ちをかかえたまま、からだの不調にも悩んだりします。
そうした精神的な問題を解決する目的で、専門家に話を聞いてもらい、心の奥底のほんとうの原因を探ります。その原因や解決の糸口に気づくきっかけをつかめるように援助してもらうのがカウンセリングです。
精神的な自立がうながされ、気持ちが軽くなったり、明るく考えられるようになったりします。自分で解決するための基本的な姿勢が養われ、別の問題が起きたときにも役立ちます。
●自律訓練法
これはセルフコントロールの力を高める訓練法です。系統的な訓練によって自己暗示をかけ、心身をリラックスさせるのです。更年期は、ストレスが増大する時期ですので、それを自覚し、ストレスに強くなる方法を身につけることはいいことです。ホルモン補充療法では効果のなかった症状に対して、効果を上げることができるでしょう。
●アロマテラピー(香りを使ってリラックス。ストレスも解消)
アロマとは芳香という意味で、植物のすばらしい香りは、心の緊張を解きほぐし、肉体も活性化させます。
フルーティーなリンゴのような香りのカモミールは、不眠に効き、神経を鎮めます。渋みのあるフルーティーな香りのラベンダーは、不眠と精神疲労の緩和に。白檀で知られるエキゾチックな香りのサンダルウッドは、不安、孤独感を取り除くといわれます。音楽を聴きながら居間で、あるいは寝室で、また湯舟にたらして入浴に、好きな香りのアロマオイルを活用しましょう。
●マッサージ(ツボを刺激して心身ともにリラックス)
専門的な技術はなくても、自分で気持ちいいと思えるところを押したり、さすったりしてみてください。あるいは、本を見てツボを探したりして、マッサージするのもよいでしょう。また、パートナーや家族にしてもらうのも、コミュニケーションが深まります。
自分のからだをケアする時間を持つことは、心のゆとりでもあり、癒しの時間になります。
●リフレクソロジー
簡単にいうと、足裏マッサージです。すべての臓器は足裏に対応する部位を持ち、臓器の不調は対応するその足裏の部位に現れるのです。ですから、足裏マッサージをすると、そこと対応する臓器も機能向上する、という考えによるものです。
入浴後などに手の親指で足裏のしこりを感じるところなどを、よくもみほぐしてください。血行がよくなり、足があたたかくなり、心地よいものです。
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