のぞんでいるのに1年以上妊娠しないのが不妊症
「妊娠をのぞんで避妊をせずに性交しているのに、1年以上妊娠しない」のが、一般的な不妊症の定義です。
一度も妊娠したことがないものを「原発性不妊」、妊娠・出産の経験があるのに、その後妊娠しないことを「続発性不妊」といいます。いわゆる「ふたりめ不妊」は続発性不妊です。
35歳をすぎたら早めに検査を
不妊症の原因は、男性と女性の双方にあると考えられています。
WHO(世界保健機関)の発表によると、約7000組の不妊カップルで「女性」に不妊原因があったのは41%、「男性」24%、「男女両方」24%、「原因不明」11%となっています。
女性の場合、年齢とともに卵巣のはたらきが低下します。また40歳をすぎると流産率も高くなります。30歳をすぎてからの結婚で、子どもをのぞむのにできない場合は、1年以内に検査をするよう勧める医師もいます。
夫婦ふたりで検査を受けることがたいせつ
不妊症の原因を知るためには、夫婦で検査を受けることが重要です。「ふたりめ不妊」の場合も同様です。病院は、不妊専門外来のある産婦人科や専門のクリニックを選びましょう。
女性がひととおりの検査を受けるのに、約2~3か月かかります。妊娠しなければ、治療はステップアップしていきます(不妊治療の流れのめやす)。
女性が行う不妊検査
不妊検査は病院によって異なりますが、まず基本検査を行い、異常が疑われれば精密検査を行うのが一般的です。
検査は、女性の月経のサイクルに合わせて行われます。検査をしながら、同時に治療もすすめられます(不妊検査のいろいろ)。
初診で受ける基本検査
■問診
結婚年齢、結婚年数、避妊期間、月経の状態、いままでにかかった病気などを聞かれます。病院によっては、問診票に記入します。不妊の原因を知るために、問診はとてもたいせつですから、正直に答えるようにしましょう。
■内診
医師が外陰部や腟内の視診をします。さらに腟に指を入れて子宮や卵巣の状態を調べ、子宮の位置や大きさ、子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症がないかどうかなどをみます。
■超音波検査
初診時にはおもに、子宮の大きさや子宮の形態異常、子宮筋腫、子宮内膜症の有無などをみます。
超音波検査ではほかに、子宮内膜のようすや卵胞の発育状態、排卵の時期などもわかるので、ほとんど受診のたびに行われます。
■クラミジア検査
クラミジア(性器クラミジア感染症)に感染して卵管炎を起こすと、卵管が細くなったりつまったり、卵管の周囲が癒着して不妊になる可能性が高くなります。感染しているかどうか、以前に感染したことはないかを調べます。
■基礎体温表
正常な排卵の有無を知るのに有効です。初診時に持参しない場合、多くの病院ではつけることを指導されます。
ほかに、子宮頸がん(子宮がん)、子宮体がんの有無を調べる子宮頸部・内膜細胞診や、子宮頸管の一般的な細菌検査を行う病院もあります。
体温の低温期に受ける検査
■ホルモン検査
妊娠に関係するホルモンは、月経周期によって分泌される種類がちがうので、体温の低温期(卵胞期)、排卵期、高温期(黄体期)に行われるのが一般的。
低温期に調べるのは、おもに卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、プロラクチン、男性ホルモンについてです。
方法は血液検査で、血中のホルモンの量を調べます(ホルモン検査で疑われること)。
■子宮卵管造影(HSG)検査
子宮の中に造影剤を入れ、卵管を通り、腹腔内に流れたところでレントゲン撮影をします。子宮の大きさや形態異常、子宮筋腫、卵管のつまりなどがわかります。
検査は少し痛みをともないますが、信頼性は高く、また検査後、卵管の通りがよくなって、その後妊娠するケースがよくあるので、最近は早い段階で行う病院が多くなっています。治療を兼ねる不妊検査の代表的なものです。
ただし、造影剤にはヨードが含まれているので、ヨード過敏症の人には勧められません。検査当日は、性交、入浴はひかえます。
■卵管通気検査
子宮の入り口から炭酸ガスを吹き込み、圧力の変化をグラフに描くことによって卵管が通っているかどうかをみます。卵管がつまっていると圧力はどんどん上がります。卵管のつまりを調べるのにいちばんかんたんな方法で、子宮卵管造影検査の代わりに行われます。
排卵期のころ受ける検査
■子宮頸管粘液検査
子宮頸管の粘膜を腟鏡で見たり、粘液を取って顕微鏡で調べます。粘液の量が少ないと、精子が子宮まで入りにくく、妊娠しにくいと考えられます。
また、排卵日が近くなると、透明で糸を引くような粘液がふえるので、排卵日を予測するのにも行われます。
■ヒューナー検査
排卵日のころ性交をし、3~12時間後に受診して頸管粘液を取り、頸管粘液の中で動いている精子の数を調べます。検査結果が悪い場合、
(1) 精子に異常がある、
(2) 頸管粘液に問題がある、
(3) 妻に抗精子抗体(女性側に原因がある場合の不妊理由)がある、のどれかが不妊原因として考えられます。
■超音波検査
きちんと排卵があるかどうか、子宮内膜に着床の準備ができているかどうかなどをみます。
また卵胞の大きさをはかり、排卵日の予測にも使われます。
■ホルモン検査
卵胞ホルモン、黄体化ホルモン値を測り、排卵日の予測をたてます。
体温の高温期に受ける検査
■黄体ホルモンの検査
血液検査で調べます。高温期に黄体ホルモンの分泌が悪いと、黄体機能不全が疑われます。
さらに必要な精密検査
■抗精子抗体検査
ヒューナー検査の結果が悪い場合に行われます。採血した女性の血清の中に抗精子抗体がないか調べます。抗体があると精子にくっついて、精子の動きをさまたげます。不妊女性の数%に抗精子抗体があるといわれています。
■ホルモン負荷検査
排卵障害の原因をくわしく調べる検査で、低温期に行います。基本検査として行っている病院もあります。特定のホルモンを注射し、採血してホルモン値の変化を調べます。
■子宮内膜の組織検査
高温期に、外来時の内診で子宮内膜の組織を採取し顕微鏡で調べます。着床ができる状態かどうかがわかります。
■子宮鏡検査
子宮に異常があると疑われるとき、おもに低温期に行います。子宮の中に子宮鏡を入れ、モニターで子宮内部を観察します。子宮鏡にはやわらかくて細いファイバースコープと、やや太い硬性鏡があります。硬性鏡を使ったときは、子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫を切除することもできます。
■腹腔鏡検査
全身麻酔をかけて行います。
原因不明で不妊期間が長いときなどに行われます。へその下に2~3か所小さなあなをあけ、腹腔鏡を入れて観察します。同時に鉗子で子宮内膜症の癒着をはがすなど、治療もできます。
女性側の不妊の原因
女性不妊の原因は、排卵障害、卵管障害、子宮内膜症が多い
不妊は、妊娠する過程のどこかに障害があって起こると考えた場合、女性側の原因はつぎのように大別できます。
(1) 排卵障害
性腺刺激ホルモンの分泌が低いなどで、卵巣の中で卵子が育たなかったり、育っても排卵しない。
(2) 卵管障害
卵子をつかまえる卵管の先端(卵管采)に癒着などがあり、卵子をつかまえられない。また卵管がせまかったり、つまっていて、受精できなかったり、受精卵が子宮に移動できない。
(3) 子宮内膜症
卵巣にできて排卵をさまたげる、卵管に癒着して通り道をせまくする、子宮にできて着床しにくくさせるほか、子宮内膜症によって出る物質が受精に影響するという説もある。
(4) 子宮頸管の精子通過障害
子宮頸管粘液の量が少なく、精子が子宮に入れなかったり、女性に抗精子抗体がある。
(5) 子宮の着床障害
子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮形態異常(子宮の形態異常)、子宮腺筋症などがあったり、黄体ホルモンの分泌が悪いなどの理由で、受精卵が子宮に着床できない。
なかでも多いのは、排卵障害と卵管障害、子宮内膜症ですが、一つとはかぎらず、いくつかの原因が重なるケースが多くあります。
クラミジア感染、肥満、極端なダイエットも不妊の大きな要因
最近、女性不妊の原因として心配されるのが、性器クラミジア感染症の増加です。クラミジアに感染して子宮付属器炎を起こすと、卵管がせまくなる原因になることがあります。
性器クラミジア感染症はここ5~10年くらいのあいだに、10歳代、20歳代の、これから妊娠する時期を迎える若い女性に急増しているといわれているので、注意が必要です。
また肥満や極端なやせ、ストレスは、ホルモンのはたらきを統括する視床下部や下垂体に影響を与え、性腺刺激ホルモンの分泌を悪くすることがあります。それにより排卵障害を起こし、不妊になることも考えられます。
肥満ややせ、ダイエット、ストレスの原因は生活習慣の乱れから起こることが多いので、生活を見直すことも不妊症を治すうえでたいせつです。
女性が行う不妊治療
原因がわかれば、同時にその治療をすすめるのが不妊治療の特徴です。検査をはじめたら、治療もはじまっていると考えてください。
不妊治療の基本になるのは、タイミング療法です。この治療は、原因がわからない場合や、原因がわかって治療をすすめている場合でも、継続して行います。病院によっては、不妊カップルの3~4割近くが、タイミング療法で半年以内に妊娠しています。
原因になっている障害の治療も並行して行います(子宮内膜症の治療法のいろいろ)。重症のケースは、体外受精を行う場合もあります。
タイミング療法
排卵された卵子が受精できる時間は約1日、精子は約3日間といわれています。ですから受精を確実にするには、排卵直前にセックスをするといいと考えられます。医師が排卵日を調べて、セックスのタイミングを教えるのがタイミング療法です。
医師は超音波検査、血液検査、尿検査、子宮頸管粘液検査などで排卵日を特定します。
(1) 超音波で卵胞の大きさを見る
排卵が近づいてくると、卵胞が日に日に大きくなるのが観察できます。その人の排卵時の卵胞の大きさを調べておくと、だいたいの排卵日が推定できます。
(2) 血液中と尿中のLH(黄体化ホルモン)を調べる
排卵時期になると、下垂体から排卵をコントロールするLHが大量に分泌されます。
LHが血液中に大量に分泌されはじめて36~40時間後、尿中に大量に分泌されはじめてから24~36時間後に排卵が起きるといわれています。
(3) 子宮頸管粘液検査
頸管粘液の量がふえ、透明で糸を引くような粘液になると排卵が近づいています。
病院によっては、正確に排卵させるために、卵胞径が18~22mmぐらいに育ったとき、hCGという排卵誘発剤を注射して、約36時間後に排卵させるという方法をとるところもあります。
セックスのタイミングを逃さないために、排卵の時期には、たびたび病院に通う必要があります。
家でも基礎体温や排卵判定薬を使って、おおよその排卵日を知ることはできますが、医師が指導するタイミング療法よりは妊娠率が低くなります。
この方法で注意したいのは、女性が妊娠のためだけのセックスに集中して、男性の気分をそいでしまわないこと。女性もセックスを楽しむ余裕を持ち、雰囲気をつくることもたいせつです。
排卵障害の治療
●肥満や極端な体重減少による無排卵
体重を標準体重にもどすことで、自然に排卵が起こることがあります。しかし体重がもどっても排卵が起こらない場合は、排卵誘発剤を使います。
●性腺刺激ホルモン分泌異常
下垂体にはたらきかける排卵誘発剤を服用したり、卵巣を直接刺激する排卵誘発剤を注射します。
●高プロラクチン血症
プロラクチンの分泌を抑える薬を飲みます。まれに、下垂体にできた腫瘍が原因のことがあり(プロラクチノーマ)、その場合はおもに薬物治療が行われます。
●多嚢胞性卵巣症候群
下垂体にはたらきかける排卵誘発剤を服用したり、卵巣を刺激する排卵誘発剤を注射したり、手術でかたい卵巣の表面を焼いて排卵しやすくすることもあります。
卵管障害の治療
●卵管閉塞
卵管がせまくなっているときは、子宮卵管造影検査で通ることも。内視鏡を内蔵した細いカテーテルを卵管に挿入し、先端の風船をふくらませてつまっている部分を押し広げる比較的新しい治療法も行われています。
●卵管周囲の癒着
腹腔鏡を使って、癒着をはがす手術が試みられることも。
●卵管水腫
腹腔鏡を使って水腫を切除し、体外受精を行うことがあります。
なお両側の卵管閉塞や癒着がひどいなどの場合は、体外受精が有効です。
子宮の着床障害の治療
●子宮筋腫、子宮腺筋症
●子宮内膜ポリープ
子宮鏡を使って、子宮内へ鉗子を入れ、ポリープを切除することもあります。
●子宮の形態異常
子宮の下側はつながっていても、上側が角のように二つの分かれている双角子宮、子宮の外観は正常でも、中に壁があって子宮内が左右に分かれている中隔子宮の場合は手術をすることもあります。
●黄体機能不全
注射や飲み薬で黄体ホルモンを補充したり、卵巣の黄体を直接刺激する排卵誘発剤を注射して、黄体ホルモンの分泌をうながします。
精子通過障害の治療
●頸管粘液の量が少ない
人工授精が有効です。
●抗精子抗体がある
確実性が高く、多く試みられるのは体外受精です。
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