注意したい年代
10代、20代、30代、40代、50代、60代。
卵巣は、膨大な数の原始卵胞(卵子のもと)をかかえていて、それを周期的に排卵させたり、女性ホルモンを産生して分泌するなど、女性にとってたいせつな役割がある臓器です。
ところが卵巣は、からだのなかでもとくに腫瘍ができやすい臓器で、その種類も多岐にわたります。
卵巣にできる腫瘍は、大別すると、良性のものと悪性のもの、その中間的なもの(境界病変)とに分けられます。良性の代表的なものとしては、卵巣嚢腫があり、悪性の代表は卵巣がんです。
また、卵巣腫瘍は、腫瘍の内部の状態によって、嚢胞性のものと充実性のものに分けられます。
嚢胞性腫瘍は、腫瘍の内部が液状の分泌物で満たされているもので、多くは良性で、嚢腫と呼ばれます。充実性腫瘍は、内部が腫瘍組織で満たされていて、かたいこぶのような状態のものをいいます。悪性のことが多いので注意が必要です。なお、嚢胞性の腫瘍でも、一部に充実性の部分を含む場合は、悪性を疑います。
正常な卵巣は、親指ほどの大きさですが、腫瘍ができると徐々に大きくなります。ところが、腫瘍が小さいうちは、ほとんど自覚症状がなく、握りこぶし大くらいになるまで病気に気がつかないことがほとんどです。
卵巣に腫瘍が見つかった場合にたいせつなのは、腫瘍が良性のものか悪性のものなのかを鑑別することです。良性か悪性かの診断は、検査である程度わかりますが、最終的には手術で摘出した腫瘍の組織診で確定します。
良性卵巣腫瘍
卵巣には、いろいろな種類の腫瘍ができますが、そのほとんどが良性の腫瘍です。良性であると診断され、腫瘍も小さく、気になる症状がなければ、すぐに治療をはじめる必要はありませんが、腫瘍は自然に消えたり、小さくなることはないので症状の変化に気をつけます。
卵巣嚢腫
●どんな病気?
卵巣にできる良性の腫瘍の一つで、卵巣の中に分泌液や脂肪などがたまり、腫れてしまう病気です。腫瘍が小さいうちは、自覚症状があまりなく、腫瘍が握りこぶし大くらいになってから気がついたり、検診などで産婦人科を受診して、偶然発見されることが多いものです。
卵巣の腫瘍にたまる中身の性状によっておもにつぎの三つに分けられます。
漿液性(しょう・えき・せい)
中身はサラサラした黄色い水様液です。卵巣嚢腫のなかでいちばん多く、約30%を占めます。大きさは握りこぶし大くらいから、まれに子どもの頭大程度で、重さが数kgにもなることがあります。多くは、片側の卵巣にのみ発生します。
ムチン性嚢胞腺腫
ネバネバした卵の白身のような粘液がたまります。大きくなりやすく、大人の頭ぐらいの大きさになることもあります。卵巣嚢腫の約10~20%を占めます。
類皮嚢胞腫(るい・ひ・のう・ほう・しゅ)
中身はドロドロした脂肪や毛髪、歯、骨、軟骨などです。なぜこのようなものが入っているのか、はっきりした原因はわかっていませんが、卵子のもとである胚細胞は、人のからだをつくるもととなる細胞であるため、それが変化してできるものではないかと考えられています。
両方の卵巣にできることが多く、卵巣嚢腫の10~15%にあたります。
●かかりやすい人
卵巣は腫瘍ができやすい器官なので、特定の危険因子はありません。年齢や体質、ライフスタイルなどにかかわらず、女性ならだれでもかかる可能性がある病気です。
●原因
なぜ卵巣の中に分泌物がたまるのか、はっきりした原因は不明です。
●症状
嚢腫が大きくならないと、なかなか症状が現れません。
嚢腫が大きくなるにつれ、下腹部がふくれた感じがしたり、周囲の臓器や組織を圧迫して、頻尿や便秘、下腹部痛が現れます。なかには下腹部のあたりをさわってしこりがふれて気がついたり、おなかだけが目だって出てきて気づくこともあります。
自覚症状がない場合は、妊娠やがん検診などで受診した際に、偶然発見されることがほとんどです。
なお、まれに大きくなった嚢腫が、なんらかのきっかけで、茎捻転(卵巣嚢腫の茎捻転に注意)を起こすことがあります。この場合は、下腹部に激痛が起こります。
●診断
内診で腫瘍を触知するほか、超音波検査で、大きさや性状を調べます。
腫瘍が充実性部分を有する場合は悪性であることも疑い、腫瘍マーカー(婦人科で行われるおもな検査)やMRI・CT検査(子宮筋腫の診断の流れ)を行うことがあります。最終的には、手術で嚢腫を摘出して診断を確定します。
●治療
原則として、大きさが7~8cmを超えるものは手術で嚢腫を摘出します。これは、手術をしてみないと完全に良性か悪性かの判断がつかないことや、まれに二次的に悪性腫瘍が発生する可能性もあるためです。
卵巣を取るかどうかは、嚢腫の種類や状態、年齢、出産の希望の有無などによってもちがいますが、一般に悪性の疑いがまったくなければ、嚢腫だけを切除する嚢腫核出術が行われます。大きな嚢腫を摘出した場合でも、卵巣がわずかに残っていれば卵巣の機能は残るので心配はいりません。卵巣ごと切除しなくてはならない卵巣摘出術でも、できるだけ片方の卵巣は残します。若い人の場合は、嚢腫の再発の可能性は残りますが、極力、卵巣を残して嚢腫だけを取り除くことが多くなっています。
手術は、腹腔鏡下手術(子宮、卵巣の手術を受けるときの「腹腔鏡下手術の手順と経過」)で行うことが多くなりましたが、状態によっては開腹手術が必要です。
嚢腫が非常に大きい場合や、ほかの臓器と癒着がはげしいとき、閉経後なら、卵巣の摘出、あるいは卵管や子宮まで取る子宮・付属器摘出術を行う場合もあります。
なお、嚢腫が小さく、あきらかに良性と鑑別できたときには、定期的な検査で慎重に経過を観察します。
●術後の経過
卵巣は左右一対あるため、片方の卵巣を取っても、また、わずかでも卵巣が残っていれば機能するので、妊娠やホルモン分泌になんら影響はありません。
両方の卵巣を取った場合は、ホルモンの分泌がなくなるため、のぼせやほてりなど更年期障害(更年期に起こりやすいからだの不調・トラブル)と同じ症状が現れてきます。ただし、卵巣がなくなってしばらくすると、副腎という器官からホルモンが分泌されて症状がやわらぐこともあります。また、ホルモン剤を補って治療する方法もあります。術後の性生活の開始は医師に確認を。
●あなたへのひとこと
卵巣嚢腫の多くは、手術による摘出が必要になります。どの時点で、どのような手術をするかなど、医師の説明を十分に受けて、自分の状況を正しく理解し、治療にかかわっていきましょう。手術に迷ったら、セカンド・オピニオンを求めてみるのも一つの方法です。
どちらか一方の卵巣が残っていれば、女性ホルモンは分泌されます。両方の卵巣を取らなければならない場合でもホルモン剤で補うことができ、女性らしさがなくなるわけではありません。
なお、腫瘍が良性と診断されても、ごくまれに悪性に変わることもあります。半年に1回の検診は、欠かさずに受けてください。
充実性部分を含む腫瘍
●どんな病気?
充実性腫瘍は、卵巣にできる腫瘍の一種で、さわるとかたいこぶのような感触がします。良性型、悪性型、その中間の3タイプがあります。年齢、体質、ライフスタイルのちがいなどに関係なく発症し、原因も特定されていませんが、悪性である場合が多いので注意が必要。悪性の代表は、卵巣がんです。
なお、嚢胞性腫瘍の一部に充実性の部分がある場合も、悪性を疑い、治療を開始します。
●症状
腫瘍が小さいうちは、ほとんど自覚症状はありませんが、腫瘍が握りこぶし大になると、下腹部にしこりを感じたり、下腹部痛や腰痛が起こります。腫瘍の種類によっては、不正出血したり、月経の異常が起こったり、腹水や胸水が発生したり、せきがでる、体毛が濃くなるなど、さまざまな症状が現れます。
●診断
卵巣嚢腫と同じ検査方法を行い、診断を確定します。
●治療
診断を確定するためにも、腫瘍の大きさにかかわらず、早めに手術を検討します。とくに、悪性が疑われた場合は、できるだけ早く手術を行います。手術は、病巣のある卵巣と卵管を摘出する付属器摘出術になることが多く、ときには子宮も含めて摘出することもあります(卵巣がんの「治療」参照)。
●あなたへのひとこと
充実性腫瘍イコールがんではありませんし、悪性のものばかりではありません。診断を確定し、早期に治療を行うためにも迷わず手術を受けましょう。
早期に病気が見つかったことを前向きにとらえ、悲観せずに治療を受けましょう。早期発見すれば、治療法の選択も広がります。
術後の性生活などは、卵巣がんの「あなたへのひとこと」も参考にしてください。
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掲載された情報を参考に、気になる症状などがあれば、必ず医師の診断を受けるようにしてください。