尿路感染症(にょうろかんせんしょう)

 腎臓、尿管、膀胱、尿道をまとめて腎尿路系といいます。尿が体外に出るまでのどこかに細菌が感染して炎症を起こす病気が尿路感染症です。
 女性に多い代表的な病気は、腎盂腎炎と膀胱炎です。

腎盂腎炎


どんな病気?


 細菌が腎盂に侵入して炎症を起こした状態です。かつては「腎盂炎」と呼ばれていましたが、腎盂に起こった炎症は、腎臓全体にもおよぶことから、現在は「腎盂腎炎」と呼ばれています。急性と慢性とがあります。

急性腎盂腎炎


症状


 ぞくぞくするような寒気や、ふるえをともなった高熱(38度以上)と、強い腰痛が特徴です。熱のでかたが独特で、夕方から夜にかけて上がり、朝には下がってくるので「治ったかな」と思うと、また、夕方ころから急に上がってきます。
 この症状から、ふつうのかぜとはちがうということがわかります。
 わき腹から背中にかけての腰の部分が痛み、どちらか片側だけに起こることがほとんどです。吐き気や嘔吐、全身の倦怠感をともなうこともあります。
 また、膀胱炎から起こった場合は、排尿痛や頻尿などの膀胱炎症状がみられます。
 放置すると、腎臓のはたらきが低下したり、細菌が血液に侵入して、重篤な感染症の敗血症を引き起こすこともあります。

原因


 腸内細菌が尿道から膀胱、尿管と逆行して腎盂に侵入して感染したもの(逆行性感染)で、原因菌の80%が腸内細菌の大腸菌です。多くは、膀胱炎を起こした細菌が腎臓のほうへ逆流して、腎盂腎炎が起きます。
 膀胱炎にともなって起きる腎盂腎炎は、若い女性に多くみられます。膀胱炎に引きつづいて高熱がでたときは、腎盂腎炎を疑います。過労などでからだの免疫力が落ちたときに発病しやすくなります。
 細菌が血液にのって、腎盂にたどりつき感染する(血行性感染)ケースもあります。
 尿路に結石(尿路結石)や腫瘍、狭窄などがあると尿の流れがとどこおり、そこで菌が繁殖して感染を起こしやすくなります。
 通常は膀胱にたまった尿は腎臓には逆流しません。しかし、膀胱尿管逆流症(膀胱から尿が腎臓に逆流する先天的な病気)の人は、膀胱炎から腎盂腎炎をしばしば起こします。

治療


 多くの場合、1週間程度の入院が必要になります。細菌を死滅させるために抗生物質の点滴を行います。また輸液(点滴によって、液体を血管内に投与する)をして尿量をふやしたり、安静を保つこともたいせつです。
 適切な治療を受ければ2~3週間で完治します。

あなたへのひとこと


 治療を開始して症状が消えると「治った」と思いがちですが、腎盂腎炎の治療でもっともたいせつなことは、医師の指示に従って、腎臓の菌が完全に死滅するまで抗生物質を服用しつづけることです。勝手に中止すると、炎症がつづいたままの状態で慢性化し、10~20年後に腎機能の低下を招くことにもなります。治療後、尿検査や血液検査を受けて完治したことを確認することが重要です。
 しばしば膀胱炎から腎盂腎炎になる場合は、膀胱尿管逆流症がないかどうか、一度、排尿時膀胱造影という検査を受ける必要があります。
 糖尿病の人は悪化しやすいので注意が必要です。
 過労は再発の誘因になります。夜ふかしや睡眠不足など、不規則な生活はやめましょう。仕事では残業はひかえ、家事なども無理をしないようにします。

慢性腎盂腎炎


症状


 全身倦怠感や、にぶい背中の痛み、食欲不振などがみられ、しばしば37度台の微熱がつづきます。進行すると、腎機能が低下して腎不全の原因になることがあります。

原因


 急性腎盂腎炎の治療が不十分で、炎症がつづいている状態や、尿の流れが悪くなる膀胱尿管逆流症や、尿路に結石や狭窄がある場合も、慢性化しやすくなります。

治療


 抗生物質を長期間投与して、細菌感染をできるだけ制御します。同時に慢性化をもたらしている病気の治療を行います。

あなたへのひとこと


 この病気は経過の長い病気です。泌尿器科の専門医の指示に従って定期的に受診し、慢性化をもたらしている病気の治療も含めて、根気よく治療をつづけることがたいせつです(そのほかは前述の急性腎盂腎炎の項目を参照)。


膀胱炎


どんな病気?


 膀胱に炎症を起こした状態です。急性膀胱炎、慢性膀胱炎、間質性膀胱炎の三つの種類があり、女性に多いのが特徴です。

急性膀胱炎


症状


 特徴的な症状は、以下のとおり。
(1)排尿痛 排尿時や排尿の終わりごろに、さし込むような痛みや鈍痛が起こる。排尿後も、まだ尿が残っている感じで、スッキリしない(残尿感)こともある。
(2)頻尿 排尿の回数が多く、排尿後もすぐにトイレにいきたくなる。
(3)尿がにごる 尿に白血球が混じって白くにごる(膿尿)。ひどくなると血液が混じって赤く見えることもある。尿中に細菌がふえると、尿のにおいがきつくなる。
 診断には尿検査を行いますが、その際は、陰部をよくふいてから排尿し、中間尿(女性が知っておきたい正しい尿検査の受け方)をとるようにしましょう。

原因


 原因の80%は大腸菌が尿道から膀胱に侵入して炎症を起こしたものです。女性は男性にくらべて尿道が短く、しかも尿道口が肛門から近いため、肛門の周囲にいる大腸菌が膀胱内に侵入しやすいのです。
 またこの病気は、20歳前後の性的活動期の女性に多くみられます。これは腟が肛門や尿道口と近いことから、セックスによって菌が膀胱に入りやすくなるからです。

治療


 原因菌をつきとめ、抗生物質を投与すると、ふつう3日~1週間で治ります。抗生物質を飲むと1~2日で症状は消えますが、細菌が完全に死滅したとはかぎりません。
 膀胱炎は、きちんと治さないと再発をくり返します。症状がよくなっても、通院をやめないように注意します。医師の指示に従い、完治させることがたいせつです。水分を多くとって尿量をふやし、膀胱内に繁殖した細菌を洗い流すこと。十分な休養と睡眠も回復を早めます。

あなたへのひとこと


 膀胱炎は職業上トイレをがまんすることが多い人や、便秘がちの人に起きやすく、再発もしやすいものです。
 また疲れやストレスがたまって免疫力が落ちたときも、かかりやすくなります。「疲れたな」と思ったら、無理をしないこと。残業はひかえ、家事も家族に分担してもらいましょう。
 アルコールや刺激の強い香辛料は、炎症を悪化させたり、尿路の充血を招く原因になるので避けましょう。
 性交渉をもったあとに膀胱炎を起こしたときは、セックスのあとすぐにトイレにいかなかったため、膀胱内の菌がふえてしまったことが原因です。
 最近は若い女性に、性感染症のクラミジア(性器クラミジア感染症)による膀胱炎がふえています。無防備なセックスをしないよう、十分に注意してください。

慢性膀胱炎


症状


 初期の自覚症状は、下腹部の不快感くらいですが、炎症が強くなると、急性膀胱炎と同様に、頻尿や残尿感などが現れます。

原因


 ほかの病気で放射線治療を受けたとき、放射線が膀胱にもあたるために起こる放射線性膀胱炎のほか、抗アレルギー剤や抗がん剤などを使用することでも起こります。実際はそう多くない病気です。なお、膀胱結核の人も慢性膀胱炎といえます。
 膀胱結核はおもに肺結核病巣から結核菌が血液に乗って腎臓に感染し、さらに尿の流れに乗って尿管、膀胱にまで感染がおよぶ病気です。尿中に結核菌が発見されることで診断ができます。
 いずれにしても、急性膀胱炎を起こす菌が原因ではないので、急性膀胱炎が完治しないでくり返し起こすものを慢性膀胱炎と呼ぶのはまちがいです。

治療


 原因となっている病気を治療しないと完治しません。
 病気が進行して膀胱が萎縮し、頻尿などの症状がひどい場合には、膀胱を広げる手術の膀胱拡大術を行うこともあります。

間質性膀胱炎


症状


 下腹部痛(膀胱痛)、頻尿など、症状は急性膀胱炎と非常に似ていますが、決定的にちがうのは、同じ排尿痛でも、急性膀胱炎では排尿の終わりのころに痛みを感じるのに対して、間質性膀胱炎の多くは、尿が膀胱にたまってくると激痛が起こり(蓄尿痛)、排尿するとらくになる点です。重篤になると、1日20~30回と極度の頻尿になり、尿がたまってくると、就寝中でも痛みで目がさめ、夜中に10回以上トイレに起きるようになります。さらに急性膀胱炎とちがうのは、尿中に大腸菌などの細菌が検出されないことです。

原因


 膀胱壁の粘膜に炎症が起こるのが急性膀胱炎ですが、もっと深く粘膜の下層部にまで炎症がおよぶのが間質性膀胱炎で、膀胱が萎縮する病気です。
 原因は不明ですが、自己免疫疾患(免疫の異常)やアレルギー疾患ではないかと考えられています。実際、アレルギー性鼻炎(鼻過敏症)など、アレルギー性疾患を持つ人に多くみられます。
 女性に圧倒的に多い病気で、現在アメリカでは患者が100万人以上いるといわれています。しかし日本では、医師のあいだでも間質性膀胱炎の認知度がまだまだ低いため、少ない人数しか確認されていません。

治療


 症状が急性膀胱炎と似ていることから、医師でも正確な診断がむずかしいのが現状。泌尿器科の専門医でのくわしい問診や補助的診断として、内視鏡検査が必要になります。原因が不明なため確定的な治療法はありませんが、萎縮した膀胱を広げるために、腰椎麻酔を行って膀胱を水圧で広げる(膀胱水圧拡張術)などによって症状を緩和させます。

あなたへのひとこと


 急性膀胱炎と誤診されて、抗生物質を処方されるケースが多いのですが、この病気に抗生物質は効きません。間質性膀胱炎と正しく診断されるまでに、いくつも病院を受診する患者さんが多いのです。
 治りにくい膀胱炎で、抗生物質を何種類飲んでも改善されない、しかも膀胱痛と頻尿があるときは、医師に「間質性膀胱炎ではないか」と質問してみましょう。なにより泌尿器科の専門医で適切な治療を受けることが大事です。
 インターネットなどで、間質性膀胱炎の知識を得たり、患者の会などに問い合わせるのもよい方法です。

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掲載された情報を参考に、気になる症状などがあれば、必ず医師の診断を受けるようにしてください。

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