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山本智美:助産師日記
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【第8回】専門家の意見はぜったいか?

山本智美:助産師日記

前回は、出産場所の情報の選択についてと、出産施設情報誌の活用について書きましたが、今回は、専門家の意見の活用について書いてみようと思います。

情報時代といわれている現在、お産や育児についても、さまざまな情報が飛び交っています。みなさんは、その情報をどのように選択していますか。専門家に相談する?  お産や育児の専門家と呼ばれている人は、数多くいます。その人たちは、みなさんの力になろうと思って応援しています。そして、専門家の助言は、みなさんにかなりの影響力があるのではないでしょうか。  しかし専門家によって、考え方が多少違っていることもあります。それが、専門家の意見だからとすべて聞いてしまうと、自分の中で混乱を招いてしまうこともあるのです。  今回は、専門家からの情報のはざまでゆれ動いてしまった例を紹介しましょう。

帝王切開か経膣分娩か

1回経産のKさんは1人目を経膣分娩しており、今回は逆子で経過していました。自分としては、どちらから生むかということはあまり考えていなかったようでした。最初、医師から「下からいきましょう」と言われ「下から生むんだ」と思っていました。

しかし、違う医師から「逆子を下から生むリスクについて、かなり危険をはらんでいる」と言われ、本当に大丈夫なのかと思い始めました。助産婦に聞いてみると「下からがんばってみれば」と言われてしまい、もうその時点で、本当はどちらからがいいのかわからなくなっていました。

私は「何を悩んでいるのか、あなたはどうしたいのか」をたずねました。Kさんは、医師や助産婦がいろいろなことを言っており、わからなくなっていると言っていました。そこで、Kさんと前回のお産をどう思っているのか、自分のお産についてどのような考えを持っているのか、などを話し合ってみました。そうすると、Kさん自身が自然分娩で生みたいと思っていることを再確認したようで、「自分としては、やれるのであれば下からしてみたい」という言葉がかえってきました。

Kさんは経膣分娩をトライしましたが、結局途中で帝王切開になりました。しかし「帝王切開になったけど、トライできてよかった。悔いはない」と言っていました。

母乳かミルクか

これは産褥入院中の話です。初産婦のSさんは、出産後、はじめは「出れば母乳がいい」と言っていました。ある時、助産婦から「母乳でいけそうだから、がんばってみたら」と言われ、母乳だけで行っていたら、今度は違うスタッフから「こんなに体重も減っているし、ミルクを足さないとだめよ」と言われてしまいました。

「ある人からは母乳で、違う人にはミルクを足してと言われて、何を信じてよいのか、誰を信じてよいのか、どちらか正解なのかわからなくなってしまった」と混乱してしまい、育児にも自信が持てなくなってしまったのです。2人のスタッフはそのときどきに思ったことを、よかれと思って助言したのでしょうが、結局Sさん自身の気持ちを確認せず助言し、Sさんもすべて鵜呑みにしてしまったため、混乱を招いてしまったのです。

以上のふたつの例は、自分の考えがはっきりしないところで何人かの専門家の意見が入り、それが違うことで、とまどい迷わせてしまいました。意見を聞くことはよいと思いますが、あくまでも参考意見としてとらえ、自分はどうするのかを明確にしていきたいですね。

最近、自己決定という言葉をよく聞きます。「あなたが、自分で決めましょう」ということになるのですが、なかなか自分で決められるものではありません。しかし、自分自身の気持ちを確認すること、それが今の状態とどう結びつくか、そうすることで何が予測されるかなどを、誰かと話すことで、決められることもあります。そのために、助産婦を活用するのもひとつの方法ではないかと思います。私たち専門家も、まず本人の考えを尊重しながら、助言していきたいものです。

(1999.8)

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