前回までは、私が出会った妊婦さんたちの例をあげながらお産にまつわることや、病院との関わり方などをお話ししてきましたが、今回は、何か変だなと思うことや、妊婦さんを見ていて感じたことなど、日頃から気になっていることをつれづれなるままに書いてみました。こんなこと、みなさんはどう思われますか。
気になる矛盾
寒さが厳しく、風邪が流行していますが、みなさんは大丈夫ですか? 私が勤める病院でも風邪が大流行していますが、その中でもいたって元気な私です。
近頃、病院では全館禁煙のところが増えてきました。でも、そうでない病院もあります。妊婦さんに「たばこはよくありません。やめましょう」と言っているのに、妊婦さんや褥婦さんが通る廊下に灰皿が置いてあったりするのを見かけることがありますが、これでは「どうぞ吸ってください」と言っているようですよね。たばこは、吸っている人よりもまわりにいる人の方が煙を吸うことになるのに。まわりを含めた配慮は大切だと思うのですが…。
こんなふうに、まわりを見渡すと結構矛盾していることがあったりしますよね。そういうことを声に出して、疑問に思ってみることで、初めて気がつくこともあると思うのです。みなさんは、普段何か「あれ?」と思うことはありませんか? 今回は、私が普段気になっていることについて、気ままに書いてみようと思います。
まわりが見えない人
席のことで日頃気になることがもうひとつあります。最近は、病院に夫婦でいらっしゃる方が多いですね。それはそれでいいことだし、夫が妻の体を労っている光景にもとても好感が持てます。 でも、ふたりの世界に入ってしまっていて、隣に妊婦さんが立っていることに気づかずに座っている夫の多いこと! 同じ妊婦なのだし、自分の妻だけでなく、他の妊婦にも気づかいをしてほしいものです。空いている外来や、広い外来ならいいのですが、待ち時間は長いし、妊婦がずっと立っているのはかなり大変だと思います。こんなところに男性のデリカシーが表れますよね。
お母さんの心づかい
でも最近、ほほえましい出来事がありました。ちょうど同じような分娩経過の初産婦さんがふたり、陣痛室にいた時のことです。 Aさんには実のお母さんがつき添っており、Bさんは自分ひとりで出産に臨んでいました。私はそのふたりの産婦さんのところを行ったり来たりしながら、陣痛間隔を計ったり、腰をさすったり、児心音を聞いたりしていました。すると、Aさんについていたお母さんが、私がAさんのところに行くと、必ずいなくなってしまうことに気づきました。「どうしていなくなるのかな」と不思議に思っていると、Aさんのお母さんは「あなたもつらいでしょう。大変よね」と言いながら、Bさんの腰をさすっていたのです。「助産婦さんも大変でしょう。うちの娘についてもらうと、もうひとりの方がひとりぼっちになってしまう。腰くらいなら私もさすれるから」と。
何だか、私はすごくあたたかい気持ちになりました。Bさんは「隣のお母さんに腰をさすってもらって、すごくうれしかった。ひとりになると、余計陣痛が痛く感じた」と、お産のあとで言っていました。
昔は、社会全体で妊婦さんをいたわったり、子どもを育てたりしていましたけど、だんだん社会が他人には無関心になってきているような気がします。でも、ほんのちょっとした心づかいで、相手も喜んでくれて自分もあたたかい気持ちになれる。そういうことを大切にしたいものですよね。
(1999.2)