【第38回】お産の受け止め方

山本智美:助産師日記

母親学級で、自分は何時間位で産みたいのかという話になると、ほとんどの妊婦さんが10時間以内で産みたいと言います。痛い時間は少なくできるだけ早く…が本音のようです。

自分のお産がよかった、難産だったと評価するには、お産の時間のほかには、赤ちゃんの状態やお産の方法などがありますが、自分の気持ち(お産をどのように受け止めたか)がとても重要です。

母乳の出るしくみを知りましょう

ホルモンによって、妊娠中は、乳腺や乳腺組織が発達し、乳房は妊娠前よりも大きく重くなります。乳首のまわりの乳輪は、大きくなり黒ずんできます。乳腺は、皮下脂肪の間に網の目のように張りめぐらされています。母乳は、そこに届いている血管から栄養分をとりこんで作られます。15から20本の管(乳管)が乳頭に達し、その手前にある乳管洞に母乳を一時ためます。赤ちゃんは、はじめは乳管洞にたまった母乳を飲みますが、同時に赤ちゃんが吸いつくとお母さんのからだに刺激が加わります。その刺激がお母さんの脳の下垂体と呼ばれる部分に伝わり、プロラクチンとオキシトシンというホルモンが分泌されます。プロラクチンは、母乳を作る働きと母性を作り上げるホルモンです。オキシトシンは、乳腺のまわりの小さな筋肉を収縮させて、ポンプのように働き、母乳を搾り出して乳管に流し込むホルモンです。これらのホルモンは、お母さんにストレスがあって不安を感じている時や、やらなければいけないことが多すぎる時、母乳が出ているのか心配な時などには、一時的に少なくなることがあります。リラックスすることが大切です。

Aさんとの出会い

母親学級の1回目を担当したときに、Aさんと出会いました。その後分娩室で再会しました。Aさんは、できるだけ医療介入(陣痛促進剤や会陰切開術など)をしたくないというバースプランでした。陣痛発来後6時間程度で子宮口が全開大し、スムーズな分娩進行を辿っていましたが、2時間経ってもいきみはこない状態でした。医師に相談すると、胎児の状態はよいのでこのまま経過をみているということでした。

Aさんは、歩いたり、体位をかえたりと自分でできることを積極的に行っていました。

それでも胎児が産まれる気配がなく、子宮口全開大の6時間後に陣痛促進剤を使用しようかという話になりました。

子宮口が全開大して2~3時間で赤ちゃんが産まれるのが一般的ですが、私の勤務で引き継いた時点ですでに8時間が経過。それでもAさんは、積極的に前向きにお産に向き合っていました。私たち助産師もできるだけ答えようと支援し、少しの進行状態も見逃さず「Aさん、児心音の聴く位置が下がってきてますよ。少し進みましたよ」「この姿勢はとてもよいですよ」などと励ましました。

お産の経過が長いとお産についているパートナーはよく、我慢しきれずにイライラしたり、ついていられないと焦ってしまうことがあります。しかし、Aさんのパートナーは、とても必死に「少し進んでいるって。よかったね」と、とてもポジティブな声かけをしていました。疲れているかなと思い、リクライ二ングチェアで少し休んでいいですよと言うと、「自分だけ休むなんて…」と少し腰をかけるとすぐAさんの腰や足をマッサージしています。素晴らしいコーチだなと感激しました。結局11時間かけて赤ちゃんを自分の力で出産しました。

がんばった!赤ちゃん、ママ、そしてパパ

生まれた赤ちゃんの頭を見ると、どのように骨盤を通過したのかがわかります。Aさんの赤ちゃんは、頭の骨を重なり合わせ、最大限小さくしゆっくり生まれてきたようでした。

通常、分娩第2期は11時間もかかりませんし、このようにお産を待てるかというと難しいこともあります。実際、私も初めての経験でした。しかし、なぜ待てたのでしょうか。赤ちゃんが元気であったことがいちばんの理由で、Aさんとパートナーともに前向きにがんばっていたことがあります。それを理解し、医師も見守ってくれたこと。勤務していた助産師たちも考え方がいっしょで、そこにいたすべての関係者が、見守れた雰囲気があったと思います。私は、生まれた赤ちゃんに「がんばったね。元気に生まれてくれてありがとう」といいながら赤ちゃんの処置をしていました。

退院前にAさんと話ができました。「私は、色々な人に助けられて産むことができた。本当に感謝でいっぱいです」と言っていました。

みなさんは、Aさんのお産をどのように受け止めましたか? 「大変そう」「無理だ」「最悪」「すごい」…さまざまだと思います。お産の受け止め方は、人それぞれです。どのように感じるのかは、同じお産であっても違います。Aさんは、自分のお産を通して「他の人への感謝の気持ち」を感じています。それは、自分の子どもにお産を語る時に、伝えられるのです。

本当にすばらしいお産でした。

(2006.11)

ゲスト

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