【第37回】食育って・・・2

山本智美:助産師日記

今回は、赤ちゃんにとっての食育についてお話したいと思います。人が初めて口にするのが、お母さんのおっぱい(母乳)です。お母さんは、赤ちゃんのために質のよい母乳がたくさん出るようにと願っています。実際、母乳だけで育てられている赤ちゃんは、どのくらいいるのでしょうか。私の勤務している病院のデータでは、8割の方が母乳だけで退院しています。しかし、妊娠中で母乳で育てたいと思っている妊婦さんは、9割以上にも及びます。

母乳の出るしくみを知りましょう

ホルモンによって、妊娠中は、乳腺や乳腺組織が発達し、乳房は妊娠前よりも大きく重くなります。乳首のまわりの乳輪は、大きくなり黒ずんできます。乳腺は、皮下脂肪の間に網の目のように張りめぐらされています。母乳は、そこに届いている血管から栄養分をとりこんで作られます。15から20本の管(乳管)が乳頭に達し、その手前にある乳管洞に母乳を一時ためます。赤ちゃんは、はじめは乳管洞にたまった母乳を飲みますが、同時に赤ちゃんが吸いつくとお母さんのからだに刺激が加わります。その刺激がお母さんの脳の下垂体と呼ばれる部分に伝わり、プロラクチンとオキシトシンというホルモンが分泌されます。プロラクチンは、母乳を作る働きと母性を作り上げるホルモンです。オキシトシンは、乳腺のまわりの小さな筋肉を収縮させて、ポンプのように働き、母乳を搾り出して乳管に流し込むホルモンです。これらのホルモンは、お母さんにストレスがあって不安を感じている時や、やらなければいけないことが多すぎる時、母乳が出ているのか心配な時などには、一時的に少なくなることがあります。リラックスすることが大切です。

妊娠中にすること

赤ちゃんの吸う力はとても強く、乳首が痛くて母乳をあげられない人もいます。赤ちゃんが上手に吸えるように乳首の手入れをします。まずは、自分の乳首がとび出ているか、扁平か、陥没かなどを確認しましょう。わからない人は、病産院の助産師にみてもらって下さい。問題ないのに勝手に「この乳首は、吸いにくいのでは」と悩んでいる人がいます。赤ちゃんに吸われる時に、乳首がかたかったり、皮膚が弱いと切れやすくなります。乳首を強くするために、歯ブラシやタオルでこすったりしないように。できるだけ、直射日光にあてたり、ブラジャーをしないで過ごしましょう。入浴の時には、石けんでゴシゴシ洗わないこと。乳腺を保護している分泌物が流れてしまいます。乳首を触っていて、おなかが痛くなったら乳首を触ることをやめて下さい。

赤ちゃんが生まれたら

生まれたての赤ちゃんを見ていると、赤ちゃんは口をすぼめて何かを探しているような仕草をしたり、自分の指をなめたりします。それは、母乳を探しているのです。できるだけ生まれてすぐにおっぱいを吸わせて。すでにお母さんの乳房には、初乳が入っています。初乳には、免疫グロブリンが多く含まれていますが、出産直後がいちばん濃度が高いといわれています。生まれて24時間以内に、赤ちゃんに何度も(7回以上)授乳すること、その後も何度も吸わせることが母乳が出るコツとなります。しかし、そのように説明しても、お母さんから、「母乳がでていないのに吸うだけで赤ちゃんがかわいそう・・・。おなかがすくのでは」と質問されることがあります。大丈夫! 赤ちゃんは、お母さんの母乳が出てくるまで、からだに蓄えられたものだけで大丈夫な仕組みをもっているのです。安心して、何度も何度もおっぱいを吸わせてくださいね。もうひとつ大切なことは、授乳の抱き方です。母乳を飲ませる時には、赤ちゃんを正しい姿勢で抱くことが大切です。赤ちゃんの口がお母さんの乳首と向かい合うように抱きます。そのためには、赤ちゃんの支えている方の腕が疲れないように、クッションなどを使って工夫しましょう。吸われていて、乳首が痛いと感じる時には、ほとんど抱き方に問題がありますので、助産師に抱き方を確認してもらいましょう。授乳は、赤ちゃんとのコミュニケーションでもあります。楽しく授乳できるといいですね。

(2006.8)

ゲスト

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