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山本智美:助産師日記
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【第28回】“ちゃんと”ってどういうこと?

山本智美:助産師日記

はやいもので、若葉の季節になりましたね。今年4月に病院に新人助産師が入りました。

その新人さんは「がんばるぞ!」というやる気がみなぎっています。今まで一生懸命に勉強して国家試験に合格し、これからプロとして活躍するぞ! という思いと、いい助産師になりたいというプレッシャーを感じているようです。しかし、気持ちだけが焦り、空回りをしたり・・・。そんな光景をみていると、初産婦さんの気持ちに似ているなと新人さんを思い、ニヤリとしてしまいます。

さて今回は、そのようなプレッシャーを感じながらお産や育児をするとどうなるかということについてお話したいと思います。

産婦さんの希望と不安

お産で入院してくるとき、私の病院では産婦さんに、なにかお産に関しての希望や不安に思っていることなどがないかを伺っています。そうすると、「ちゃんと産みたい」とおっしゃる方がいらっしゃいます。「ちゃんと産む」とは、どういうことなのでしょうか? 「五体満足に産みたい」、「普通に産みたい」、「希望通りに産みたい」など色々だと思いますがなかなかそのなにが“ちゃんと”なのかは、具体的に考えていない方が多いようです。

先日、Gさんという初産婦さんが、かなり緊張しながらお産に臨んでいました。お産はなかなか進まず、かなり弱気になっていて、「私、ちゃんと産めるのかしら。どうして進まないのかしら。妊娠してから今まで、特に問題もなかった。ちゃんと食事も気をつけたし、スイミングにもちゃんと通ったし…。」と“ちゃんと”という言葉を何回も繰り返すのです。私は、Gさんはなにかのプレッシャーを感じていて、そのプレッシャーが体を緊張させてしまい、お産が進まないのかもしれないと思い、「Gさん、ちゃんと産むというのは、どういうお産ですか?」と声をかけました。するとGさんは、「えっ?そんなこと考えていないよ。ただ、ちゃんと産みたいだけ…。あら? 私は、なにをこだわっていたんだろう」と考え込んでしまいました。そして、「ちゃんと産まなくてもいいんですよね。あるがままで」とおっしゃいました。Gさんは、自分が赤ちゃんを産むんだということに、プレッシャーを感じていたのだと思います。

プレッシャーは体にも伝わる

お産をするときには、心のプレッシャーが体に伝わり、それが緊張となって子宮口が開かなかったり、赤ちゃんの下降の妨げになることがよくあります。体も心も開放してあげないと自然な力が出てきません。自分がどうにかしたくても、自分の思いだけでは、どうにもならない。医学の進歩が目覚ましい現代、人工的に介入することはできても、最終的には妊婦さんの力が必要であり、そうでないと産まれないという不思議さがあります。

Gさんは、その後「もう少し、やれそうです」と前向きにお産に臨んでいました。人間は意識していなくてもプレッシャーを感じるものです。とくに人から、なにかを言われた訳でもないのに、「うまく産みたい」、「いいお母さんになりたい」など、自分の理想が自分自身を追い込んでしまうことが度々あるものです。

心に余裕を

プレッシャーや不安、いらつきなどが起こると、お産ではその気持ちをなにかにぶつけることが難しく、それがお産の進行状態に影響してしまいます。育児中であれば、ともすると、その気持ちが赤ちゃんに向いてしまうこともあるのです。

“ちゃんと”できなくてもいいじゃないですか。少しくらい抜けたって、出来なくたっていいじゃないですか。“ちゃんと”にとらわれ過ぎず、心に余裕ができるといいですね。

(2004.5)

ゲスト

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