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山本智美:助産師日記
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【第22回】お産は自分と母親の関係を見直す機会?

山本智美:助産師日記

みなさん、昨年はどのような年でしたか?そして今年は、どのような年にしたいですか。今回は、年はじめから、怖いような重い話になりますが、ちょっと真剣に考えてみたいテーマからスタートします。

私とお母さん

みなさん、自分のお母さんの思い出はどのような思い出でしょうか?

うれしかったこと・ほめられたこと……。意外と嫌だったことを覚えている方も多いのではないでしょうか。

私は小学校の2年生の夏休みに、かけ算を1日で覚えさせられた嫌な思い出をずっと覚えています。かけ算を早く覚えられてよかったというよりも、お母さんがずっと自分の前に座って、「どうしてわからないの」と言われ怖かった思い出でした。看護学生になった時そのことを母に、「あの時は、とても怖かったし嫌な思い出になっている」と言いました。すると母は、はじめての子育てで必死だったこと。2年生の秋からかけ算の授業があるから、少しでも覚えていった方が私のためになるだろうと思ったことなどを話してくれました(その時の父は何をしているのかを書かないと父の存在がないので書きます。父は一緒に水泳をしたり、かけ算の練習のためにはかけ算のゲームを買ってくれました)。

初めて母がどのような気持ちで私を育ててくれたのかを聞いたとき、母も大変だったのだなということを知りました。手探りで、一生懸命育ててくれたことを実感しました。考えてみれば、忙しい中1日中、私につきあってかけ算をするのもかなりの精神力がないとやってられませんよね。私は感謝の気持ちでいっぱいになりました。

お産の現場にいると、お産をして母のありがたみがわかったという方がたくさんいらっしゃいます。同じ母親の立場になって初めて気持ちがわかるのでしょう。しかし逆に、お産の時になって子どものころから嫌だと思っていた母に対する気持ちがよみがえることもあるようです。

子どもに集中できないと言っていたRさん

お産後から「子どもに集中できない」と言いながら、自分の子どもの頃の話をするRさんがいました。その方は3人兄妹の2番目でした。「お母さんは、一番上のお兄ちゃんと下の妹ばかりをかわいがっていた。私は、いつも叱られていた」と言うのです。「だから、お母さんは、嫌いだった。だけど、どうしてかわからないけど陣痛の痛い時にずっとお母さんのことを考えてしまった」と言っていました。たぶん、親は平等に愛情はあるのでしょうが、育児の経験によって、子どもとの接し方も違ってくると思います。

初めての育児は必死、2人目は上の子どもの関わりは初めてで、上の子に気をつかってしまう。3人目になって、初めて余裕ができ育児できるのが常のようです。そうすると、愛情はみんなにかけていても、兄弟の順番によって、いろいろな受け止めがでてくることもありますね。Rさんの場合は子ども心に、訴えたかったこと、お母さんが好きで独り占めしたかったことなどがよみがえったのかもしれません。

Rさんは、自分の話をすることで整理されたのかすっきりされたようでした。「退院したら、母と育児の話をしてみます」と言っていました。

いろいろな人の力を借りてもいいんじゃない?

人間はマニュアル通りには生きていけませんよね。体験を繰り返して、学習していくものだと思います。自分がどのように育ち、何を感じているのか。どのような影響を受けているのか。その人まるごとが、次の子どもに影響を与えるのだと思います。自分と母親とが辛い関係だと、目の前にいる子どもに向き合うことができずに、母親のことが頭いっぱいになることがあります。私のように、思い切って母親に子育て中どのような思いでいたのかを聞いてみることで、一緒に話してみることで、違う母親が見えてくることもあるかと思い、ここでお話ししてみました。

また、Rさんのように他の人に話しすることによって整理されることもあります。お産の施設にいるとたまにそのようなお話をされる方がいらっしゃいます。

私たち助産師でよければ、どうぞ活用してください。しかし、私たちでは解決できないこともあります。実際、精神科の医師に相談したケースもあります。日本では、カウンセリングや精神科というとなかなかとっつきがたく、偏見もまだ残っているようです。現在テレビで「サイコドクター」というドラマ番組がありますが、やっと、そのような専門家の重要性がクローズアップされてきました。まずは、ひとりで悶々としていないで、人に助けてもらったり、弱みを見せてもいいんだということを知りましょう。そこから、勇気をもって、話してみてはどうでしょうか。

(2002.11)

ゲスト

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