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山本智美:助産師日記
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【第21回】子どもと向きあう前に…「パートナーと向きあう」ということ

山本智美:助産師日記

この連載で私は何度か、「子育てしていく中で赤ちゃんと向きあうこと」をメッセージにしてきました。HOW TOやマニュアル重視ではなく、赤ちゃんと向きあうことによって、自然に教えられることがあるからです。しかし最近、みなさん赤ちゃんと向きあう前に、パートナーとも向きあっているのだろうかと思うことがありました。そこで今回は、パートナーと向きあうとは、どういうことなのかを考えてみたいと思います。

夫に言えないと悩むHさん

Hさんは、出産後自宅に帰ろうと思っていたようでした。自宅に帰り、実母と夫に手伝ってもらった方が気持ちが落ち着くからと。しかし、退院間際になって、義母から「夫の実家に帰るのが当たり前でしょ」と言われて、どうしたら断れるのかと悩んでいました。話を伺っていると、Hさんは一人で悩み、焦っており、もっと夫に相談するといいのではないかと思いました。するとHさんは、「そういうことは夫には言えないし、夫も私の気持ちはわかってくれない」というのです。

大切な赤ちゃん出産後のこれからは、もっともっといろいろなことで相談したり悩んだりしなければいけないのに、「話し合うことができない」というのは、少し寂しいことだなと思いました。

高校生の中でも

高校生の性教育をしていても、同じように思う場面に出会います。(だいたいの高校生たちは)避妊することが必要なことはわかっているのです。しかし、その場になって、「言えない」、「嫌われたくないから、黙っている」という高校生がいます。

私は、「付き合うことって、お互いわかり合うことで、そのためには言い合えることが大切だと思うけど」と言うと、「そうだけど、言えないよ」と。この時も向きあうことの大切さを感じました。

両親学級で

両親学級をしていると、パートナーから「いろいろ手伝いたいが、何をしていいのかわからない」という言葉をよく聞きます。私は、そのようなときに「何か手伝いたいけど、何をしてほしい?」と聞いてみてはどうでしょうかと言います。一方妊婦さんからは、「夫に大変さをわかってもらいたいけど、なかなか難しい」、「夫がやってくれることは、ありがたいが、かえって手がかかってしまう」ということも聞きます。本当はお互いに支える姿勢はあるのに、と残念に思います。もう少しだけ、コミュケーションを深めれば、解決できるように思えるのですが…。

また、両親学級で私は必ず、お二人でお腹の子どもにメッセージを書いていただいています。そうすると、なかなか書くことができない方たちがいます。私は最初、どうして書けないのか不思議でした。普段から子どものことを話していれば、自然に書けると思っていたからです。「どうしよう。今まで考えていなかったね」。「何を書きたらいいのだろう」と。でも、その時から、話し合いが始まります。状況を見ていると、みなさんうれしそうに話しています。途切れることなく…。私は、「うーんいいぞ!みんな楽しそうだ」と内心ホッとします。

最近は、メッセージを書くことだけを目的にせず、それをきっかけにお互い話し合うことも目的にしています。すると、「こうやって、2人で子どものことをイメージしながら話したのは初めてだった」という言葉が聞かれてきました。

本当ならば、妊娠中ではなく、パートナーとして、人間として、いつの時期だって向きあうことは大切なのでしょうけど、なかなか難しいものです。実際私も、夫と話し合っているかと言えば、すれ違うこともあります。もしかしたら、相手と向きあう前に「自分自身とはどうなのか」と思うこともありますが…。

「婦」から「師」への変更で、「助産婦」も「助産師」となりました。

そこで、私が連載している『助産婦日記』も『助産師日記』に変えなければいけないのですが、私はこのまま『助産婦日記』でいきたいなと思っています。

そもそも「師」に変更した理由は、助産婦の社会的地位の向上や男女共同参画社会だからということのようですが、「助産婦」という言葉には、産婦(妊婦・褥婦)を助ける・女性に寄り添うなど、女性にとって親しみやすさがあったように思います。

かつては産婆と言われ、それが助産婦に変わり、今度は助産師に…。名前だけをみれば10年もすれば、「助産師」という呼び名も馴染んでくるのでしょうか。

ある両親学級に参加したご主人から、「僕は僕のキャラがある。育児雑誌に出ているお父さんのようには、いきませんよ。だけど、僕のキャラでやっていきますよ」と言われたことがありました。まさしくその通りですよね。みんな違うのだから、互いのキャラを理解することが大切。それには、話し合うことから、始まるのだと思います。赤ちゃんだって、みんな一緒ではありません(赤ちゃんも、それぞれキャラがあります)。そのキャラを理解しようとする「心の余裕」が大切なのかもしれませんね。

(2002.8)

ゲスト

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