昨年の12月に雅子妃が愛子様をご出産されました。同じ年に結婚した私としては、雅子様のことを他人事と思えずにいました。なかなかご懐妊できず、妊娠後も順調かどうか、ご出産も無事に終わるかどうかなどという全国民の思いを一心に受けて、かなりのプレッシャーがあったことと推測されます。
無事にご出産が終わり、みんながホッとしたことでしょう。そこで、今回は妊娠・出産にまつわるさまざまなプレッシャーについてご紹介したいと思います。
「赤ちゃんはまだ?」
結婚すると当たり前に妊娠してお産して家族が増えて…、というのが通常でしょうが、なかには妊娠しづらいカップルもいます。私自身もその一人なのですが。
結婚後3年も経つと、会うと必ず「お子さんはまだなの?」と聞かれました。別に子どもを必要としていないわけではなく、自然にしていてできていなかったのです。でも、毎回聞かれると結構きついものがありました。
時には、「専門家なのに」とか「助産婦として、子どもくらいいないと一人前ではないよ」とか言われて、傷つくこともありました。たぶん、言っている人たちは、社交辞令のつもりだったり、忠告してあげたぐらいの気持ちだと思うのですが、私にはかなりプレッシャーになっていました。幸い、助産婦業には影響しませんでしたが、知り合いが妊娠したことを聞くと、ちょっと荒れちゃったり精神的に不安定になった時期もありしました。
そのプレッシャーに打ち勝つためには、かなりの時間を要した感じです。
ただ、今結婚8年目になり、「自分は自分だから」とか、「自然に私の赤ちゃんを待とう」とか、助産婦としても、「他人の気持ちははかりし得ないから、わかろうとする気持ちを大切にしよう」とか思えるようになりました。
「男の子よ」
つわりで入院していたCさんは、経産婦さんでした。上の子は女の子。家は自営をしているということでした。
妊娠がわかったと同時に、つわりが始まりだんだん食事が取れなくなりました。入院後点滴を始めてから、順調に体調はよくなるのですが、退院の話が出てくるとまた、状態が悪くなりました。
何か悩みがあるのかなと思った私は、Cさんとゆっくり話をすることにしました。そうすると、Cさんは「お姑さんたちから、男の子がいいと言われたことにプレッシャーを抱えている、夫は、どちらでもいいと言っているがもし女の子だったら、夫にも申しわけがない」と話し出しました。
まだ、妊娠したばかりで性別はわからない時期でしたが、「妊娠した時点でもう決まっているし、お母さんが悩んでいると、赤ちゃんはわかるよ。プレッシャーは、きついよね」と私の体験話をしました。
その後もCさんは、ずっと男の子にこだわっていましたが、性別が男の子ということを超音波で確認してからは、すっかりつわりがなくなり無事に退院しました。
「いいお母さんで…」
お産が無事終わり、育児が始まるとたまに、自分の思うようにいかない赤ちゃんとの生活に戸惑います。
頭ではわかっていても、なかなか気持ちがついていけなくなります。赤ちゃんがおっぱいをうまく吸ってくれない、赤ちゃんが何で泣いているのかわからない、など…。Eさんもそのようなお母さんのひとりでした。そろそろ退院が近づきかけたころ、赤ちゃんのお世話がうまくいかない自分が情けなくなってしまったようで、Eさんはブルーになってしまいました。
私たちは、「まだまだお母さんになって数日しか経っていないのだから当たり前だよ」とメッセージを送ったのですが、Eさんは私たちの言うことに耳をかしませんでした。
夕方、Eさんの病室を訪ねると、ご主人とEさんの実母がお見舞いにいらしていました。ご主人は、「赤ちゃんの世話は、ほとんどこいつに任せている」ということを言っており、実母は、「もっとがんばらないといいお母さんなんかなれないよ。お姉ちゃん(Eさん)の時なんか、お母さんはほとんど眠れなかったよ」と言っていました。Eさんは、知らず知らずのうちにご主人や実母からプレッシャーをかけられていたのです。多分、ご主人や実母だってプレッシャーをかけようと思って言っていたのではないと思いますが。
私は、思わずEさんに「あまりがんばりすぎると切れちゃうよ。たまには、泣き叫んだほうが周りは手伝ってくれるよ」と言ってしまいました。
しかし、必要のない重圧は、いりません。何気なく言ったひと言で傷つくこともあります。お互いが、他人を思いやることができたらいいなと思います。
(2002.2)