妊娠すると無事に経過するのか、無事に産まれるのか、五体満足か…など、いろいろなことが心配になりますね。出産の場面に立ち会っていると、産婦さんは「産んだ」という安堵感と一緒に、「元気ですか」「五体満足ですか」と聞いてきます。大体の方には、「元気ですよ」とすぐ答えられるのですが、そうではない時もあるのです。
お産を介助し、生まれてきた子どもが何か変だとすぐわかる場合には、自分自身の表情に注意しながら「何と言ったらいいのだろう」と言葉を探している時もあります。
しかし、どの子も産まれたくて、お母さんやお父さんに会いたくて、暗い狭い子宮から出てくるのですよね。
障害といっても、産まれてすぐわかるもの、経過するうちにわかるものなどさまざまですが、今回は心臓を患った赤ちゃんのお母さん・Yさんと私の関わりについてご紹介します。
自分を責めたり、怒ったり…
Yさんは前置胎盤で妊娠中から入院し、そのまま帝王切開術でお産しました。産まれてすぐ、赤ちゃんは元気だったのですが、心雑音が聴かれ心臓疾患があることがわかりました。お父さんとYさんに状況が説明され、すぐ治療できる施設へ送られることになりました。Yさんは、ことの状況がつかめない様子で泣くばかりでした。
「頭がパニックで何も考えられない…。」
私は、今いろいろ説明しても無理かなと思い、ただ付き添うだけにしました。少し日が経ち落ち着いてくると、Yさんは「どうして、こうなったのだろう」「どうして私だけ?他の人は、普通におっぱいもあげているのに」「他の赤ちゃんの泣き声が気になる」「何が悪かったのだろう」「妊娠の初期に栄養が足りなかったのだろうか」と、自分を責めたり、怒ったりとさまざまな心境を語っていました。
お母さん仲間の支えで前向きに
私はどうしたらYさんが前向きになってくれるのだろうかと思いめぐらしながら、一つひとつのYさんの心打ちを聞き励ましていました。
しかし、Yさんを前向きな姿勢に向かわせたのは、私ではなく、以前、一緒に安静入院していた仲間でした。Yさんを心配して仲間一人ひとりが、献身的にYさんの気持ちに寄り添ってくれていたようでした。
もしかしたら、私も少しは役にたったのかもしれませんが、同じお産を経験したお母さん同士の助け合いはとても重要だと気づきました。
しばらくしてYさんから、「今後、育児するのに何を注意したらいいのだろう」「今後、どのような試練があるのかな」と前向きな言葉が聴かれてきました。ちょうど、心臓疾患を持ったお子さんのお母さんの手記があったので、その冊子を貸し、心臓疾患に対する情報を提供しました。
1カ月健診後、「大変だけど、楽しいよ」というYさん。その言葉に私もうれしくなりました。
障害があってもなくても…
障害を持った子は幸か不幸かはわかりません。その両親によって、「この子を産んで本当によかった。家が明るくなった」という時もありますし、「人生最悪」と離婚してしまう時もあります。その子と両親を含めた周りの環境がとても大切に思うのです。
私は必ずお母さんにこう話しをします。
「みなさんはいろいろ心配しながらお産され、ホッとされたと思います。しかし、お産されたお母さんの中には障害を持ったお子さんを抱えている方もいます。『子を産む』という同じ思いを経験したみなさんが、そういったお母さんの心の支えになってほしい。そして自分の子どもにも、『産まれる』ということ、『バリアフリーの気持ち』を伝えることができたら、日本はよくなるだろうね」と。
みなさんは、どう思いますか。
(2001.6)