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山本智美:助産師日記
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【第15回】自分は絶対大丈夫?

山本智美:助産師日記

妊娠・出産・育児は、誰もが当たり前に過ごしているかにような気になります。しかし、これにはいろいろなハプニングやドラマがあることを、経験されているみなさんは、十分おわかりかと思います。 ハプニングは突然やってきて、たまには受け入れがたい出来事もあります。今回は、そんな状況になった例をいくつか紹介したいと思います。

妊娠中の突然の入院

普通の日常生活をしていた妊婦のAさんは、いつものように妊婦健診に来ました。

すると「子宮口が開いているので、すぐ入院しましょう」と医師に言われました。まったく張りの自覚や痛みのないAさんにとって、ことの状況はなかなかつかめないようでした。しかし、「早く産まれたら、赤ちゃんが大変。赤ちゃんのためだから・・・」と自分に言い聞かせ入院生活を送っていたようです。

でもAさんの表情が硬く感じられたので、私が「何か気になることがあるの?」と尋ねると、「まさか、私が入院するなんて。これまで病気もせず順調だったのに。何が悪かったんだろう。これからいろいろやりたいと思っていたのに…」と。この日は話を聞くだけで終わってしまいました。 次に訪室した時にも、Aさんは同じようなことを言っていました。「自分は丈夫だったし、こんなことはありえないと思っていた。切迫早産なんて、他人事だと思っていた」と。

Aさんは、切迫早産について知識はありましたが、自分には無縁だろうと思い、正しく理解しようとしていなかったのかもしれません。切迫早産になったこと、入院したことの事実を受け止められず、悶々としていたのでしょう。私は、切迫早産についてどこまでわかっているのかを確認し、再度説明しました。そして、「赤ちゃんが産まれると忙しくなるから、赤ちゃんからの『今のうちに休んでね』というプレゼントだと思って焦らないで。入院期間を有意義に活用していた妊婦さんもいたよ」とアドバイスしました。

緊急帝王切開術になったIさん

誰でも無事に下から産みたい(自然分娩したい)と望むものです。Iさんもその1人でした。

陣痛が始まり順調に子宮口は開いていきましたが、赤ちゃんの下降が悪いのが気になりました。「赤ちゃんの降り方をスムーズにするには、寝ているより、立っていたり歩いたほうがいいですよ」という私の言葉に積極的に歩いていたIさんでしたが、子宮口全開大になってもなかなか赤ちゃんは降りてこれず、結局、帝王切開術になりました。

手術後、私は、Iさんがどのように思っているのか聞いてみました。

Iさんは初め、「赤ちゃんが無事だったのでよいです・・・」と一言だけで、その表情はさびしそうでした。気になったので何度か訪室しているうちに、Iさんは「陣痛も味わって、結局、手術になちゃって、踏んだり蹴ったり。妊娠中も順調だったので、帝王切開なんて思ってもいなかった。自分の我慢が足りなかったのかな?」と。

Iさんにとって帝王切開術はまったく予期しない出来事だったのです。自分自身には「赤ちゃんが元気だからいいんだ」と言い聞かせていたようでした。しかし、「赤ちゃんを抱っこしてもかわいいとは思うけれど、その前に、どうして手術になったんだろうということが頭から離れない」と言っていました。Iさんは、帝王切開術なんて、自分にはありえないと思っていたようでした。だから、なかなかその事実を受け入れられないのです。

絶対ということはあり得ない

私は母親学級等で、「異常」や「トラブル」について必ず説明します。聞いている中には、「怖い」「不安」と口にする人もいます。いたずらに、脅かすことはよくありませんが、絶対ということはありません。みんな誰にでも、起こりうる可能性はあるのです。

ですから、自分だったらどうするのかを、少しでもイメージトレーニングしてみることも必要かもしれません。想像力を発揮してご夫婦で、話してみたりするのもよいでしょう。  そうすることで、突然起こるハプニングに対して、多少免疫がついたり、プラス志向に考えていくことで発想の転換ができるかもしれません。しかし実際は、母親学級で話しても、他人事のように思っている人のほうが多いのが事実なのですが…。

事実を否定したくなる出来事もあるかもしれませんが、それを受け止めることも大切です。受け止めるには、人によっては時間がかかったり、他の人の手助けが必要になることもあります。そんなときは、どうぞまわりを見渡してください。きっと、力になってくれる人がいると思いますよ。

(2001.4)

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