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山本智美:助産師日記
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【第14回】産婦と助産婦のよい関係づくり

山本智美:助産師日記

「ベビカムマガジン」10月号(16~17ページ)で、妊婦さんへ、助産婦や医者とのコミュニケーション方法をアドバイスしました。今号では、助産婦自身が、妊婦・産婦・褥婦さんとのコミュニケーションについて、感じること、悩んでいることをお話します。すべての産婦さんに、いいお産をしてほしいからこそ、助産婦も試行錯誤しています。まず互いの立場を理解することから、よい関係づくりはスタートするのではないでしょうか。

産婦は助産婦を選べない

施設によっては、産婦さんは助産婦に、分娩室で初めて会うことになります。以前に勤めていた施設もそうで、ある時、後輩から「産婦さんと波長が合わないことがある」と相談されました。人間同士なので、そういうこともあると思います。「他の助産婦に代わってもらい、ちょっと距離をおいて、その産婦さんを見てみたら。本当に合わないなら、あなたも大変だろうけど、産婦さんのほうがもっと大変だよ」と私はアドバイスしました。 助産婦は、担当を外れることができても、妊婦・産婦・褥婦さんは逃げることができません。助産院なら、最初から特定の助産婦が関わりますが、病院になると、どのような助産婦と会うのか、ほとんど予測できない現状です。

できるだけ助産婦と話をしてください

産婦と助産婦が、互いによい関係を作るにはどうしたらいいのでしょう。 病院の助産婦も悩んでいます。初めて会うのが分娩室で、陣痛という辛い状況の中から関係を得るのは大変です。産婦さんがどんなパーソナリティで、お産にどのようなイメージを抱いているのか、どんなお産をしたいのか、産婦さんについて知りたいことはたくさんあるけれど、分娩室内だけでは、まったく知り足りません。 そんな悩みを解消するために、助産婦外来(※)を行ったり、受け持ち担当制にしている施設も一部あります。しかし多くの施設はそうではありません。ではどうしたらよいのでしょうか。 まず、できるだけ妊娠中に助産婦と話をしてください。施設で出産準備教室などがあれば、積極的に発言してください。きっと助産婦の記憶に残りますから。また「話をしたい」と助産婦を尋ねてください。その人はお産を担当しないかもしれませんが、助産婦の心に触れることで、親しみがわくかもしれません。そして分娩室では、されるがまま、言われるがままではなく、自分の感じることを自由に素直に表現してください。そこから関係は成り立っていくと思います。

わがままなSさん。でも実際は…

以前、双子を出産したSさんとの出会いがありました。「Sさんは、ちょっとわがままな感じです」と申し送りを受けた私は、不安と緊張と楽しみな気持ちで、「これから担当になる助産婦の山本です。よろしくお願いします」とあいさつをしました。するといきなり、「ねえ、腰が痛いの。さすってよ」と。私は「痛いのだな、でもこれからなのに…」と思いながらも、「ここですか?」とさすっていると、「もっと上、今度は右側。ああ水が飲みたい」と、次から次にSさんは注文をしてきます。「私は腰さすりマシーンじゃないのよ」と内心思いつつ…。 少したって、「私も疲れちゃった。ちょっと水を飲んできていいですか」と思わず言ってしまったら、「あら、大丈夫。私のチョコレートあげようか。少し休んできて」とSさん。私はその時、Sさんの優しさに触れ、彼女に対する苦手意識がふっと消えていったのです。その後はよいコミュニケーションで、互いに楽しくお産ができました。 Sさんのように、積極的に言える人は希かもしれません。いえ、Sさんも最初は陣痛の辛さだけを感じ、それを訴えることしかできなかったのだと思います。それを「わがまま」「注文が多い」「一方的」と誤った見方をしていたのは、私自身だったのだと、後で反省しました。

「人」はいいお産の重要な要因です

コミュニケーションを円滑に進めるには、お互いに気持ちよいことが大切です。しかし、分娩という辛い大変なときに、助産婦に気なんて使えないし、使う必要もありません。 一方、助産婦は、どうしたらその産婦さんを理解でき、どう関わることが心地よいのかを絶えず考えているものの、なかなか答えを見い出せないまま、経過だけが進んでしまうこともままあります。もし私が担当でなかったら、もっと違うお産の体験ができたのかもしれないと感じることもままあります。 医師の主治医制を取り入れている施設はありますが、助産婦の指名(受け持ち)制(※)を取り入れている施設はごく少ない現実です。しかし、「人」は重要な環境要因。病院の建物や入院中の食事なども大切ですが、「人」はそれ以上に重要だということを、もっと多くの人に気づいてほしいし、気に留めてほしいと痛感する昨今です。

助産婦外来、助産婦の受け持ち制

助産婦外来に20年以上の歴史を持つ日本赤十字医療センターの助産婦外来では、現在、五年以上の経験を持つ助産婦が助産婦外来を担当しています。月数名程度のペースで、非番でも極力お産の介助に駆けつける妊婦さんを受け持っています。女性と助産婦さんの関係は産後も続き、「母乳外来」と名称が変わっても、まだ受け持ち助産婦さんと一緒です。退院後の母子訪問が一部の人に行われますが、これも同様。このシステムは「受け持ち制」「プライマリー」などと呼ばれています。

  • 『お産選びマニュアル』より (著/河合 蘭、農文協、定価/¥1699)
  • *もう少し一般的には、助産婦が独立して、妊婦健診にあたっていたり、保健指導を中心に行うことを、「助産婦外来」と言います。(山本さん)

(2000.12)

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