【第11回】上の子との関わり

山本智美:助産師日記

よく「子連れ入院できる産院はないか」と聞かれます。その理由は、出産で入院すると子どもを見てくれる人がいない、出産に立ち会わせたい、子どもに教えたい、とさまざま。  また、産褥入院中に心配なことをたずねると「上の子が…」という方が大半を占めます。産前産後に、上の子とどう関わるか。子どもの年齢や育児環境などによっても違ってきますが、ここでいくつかのケースを紹介しましょう。

自宅出産に決めたKさん

友人のKさんは、1人目を総合病院で出産しました。その時にまわりの経産婦から「上の子が心配」という話を聞いていたそうです。2人目の妊娠がわかった時、Kさんもまず初めに上の子のことを考えました。自分が入院した時は誰に見てもらえるのか。上の子は赤ちゃんを受け入れて、お兄ちゃんになれるだろうか。あれこれ心配したKさんは、入院期間が短く、子どもが自由に泊まることができる施設を調べましたが、希望している施設は見つかりませんでした。相談を受けた私は、出産施設の選択肢として、助産院や自宅を考えてもよいのではないかとアドバイスし、それぞれにリスクがあることも告げました。そしてKさんは夫と相談した結果、自宅出産に決めました。妊娠中は、助産婦が自宅に来て検診し、話しを聞いてくれ、ゆったりとした時間が過ごせたようでした。出産当日は、上の子や夫、友人に囲まれての、にぎやかなお産でした。

切迫早産で入院を余儀なくされたNさん

通常検診で子宮口が開いていることがわかり、Nさんは急に入院することになりました。しかし、Nさんは入院できないと出しました。「誰も上の子を見てくれない。お腹の子は小さく産んでもいいから、帰りたい」と。   結局、近所の人に連絡をし、とりあえず上の子を預かってもらって入院しました。その後は、夫が仕事を休んだり両親が来ていましたが、入院が長引くにつれてみんなも疲れてきてしまいました。そこで、公的機関と連絡をとり、上の子を乳児院に預けることにしたのです。  経産婦さんが突然入院すると、家族に多大な負担がかかり、子どももストレスを受けます。Nさんはお腹の子より上の子を心配していましたが、このように感じる方は少なくありません。急なできごとにも気兼ねなく頼れる人を作るために、普段から近所づきあいをしておくのもいいでしょう。

産褥入院中のできごと

私が勤務している産院でのできごとです。入院中のお母さんのお見舞いに来ていたIくんに、「お兄ちゃん、赤ちゃんかわいい?」と聞きました。すると「僕はお兄ちゃんじゃないよ。Iくんだよ」と涙をこらえているのです。失敗したなあと思い、「そうだね。Iくん、ごめんね。赤ちゃんかわいい?」ともう一度聞くと、今度はうんと答えました。「そう、かわいいね。Iくんもかわいいよ」と言うと、とてもうれしそうな顔をして、赤ちゃんをなで始めました。  基本的に、子どもは純粋に赤ちゃんをかわいいと思います。しかし、お母さんが赤ちゃんばかりをだっこしたり、まわりが赤ちゃんばかりに注目すると態度が違ってきます。Iくんのお母さんは、ずっと切迫早産で入院していて、Iくんはお母さんに甘えたい気持ちを我慢していたのです。

このことがあってから、私は上の子たちをお兄ちゃんと呼ばず、名前を呼ぶようにしています。「赤ちゃんもかわいいけど、あなたもかわいいよ」というメッセージを送るようになってから、上の子とのコミュニケーションが上手くできるようになりました。

また、別の経産婦さんの部屋に訪室した時のこと。上の子が来てお母さんの膝の上に座り、おっぱいを探しています。お母さんは、何も言わずその子のほしいままにさせ、「じゃ今度は、赤ちゃんの番ね」と言うのです。すると「いいよ。次、赤ちゃんね」と上の子はお母さんの膝から離れました。私はこの場面を見て、お母さんが上の子の欲求に応え、赤ちゃんへの愛情も教えているようで感激しました。

お子さんを2人、3人と持つと、必ず経験するのが上の子との関わりです。子どももそれなりに状況を感じ取って葛藤しますが、それが成長につながっていきます。家族が増えるということは、家族みんなが成長していくことだと思います。そこには、悩みやとまどいもありますが、できるだけ上の子と向き合って、産まれてくる赤ちゃんを迎えられるといいですね。悩むときは1人で悩まず、いろいろな人の体験を聞いたり、助けをもらってください。

(2000.4)

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