何かがきっかけになって
出産を間近に控えた奥さんと一緒に病院を訪れたHさん。「もうお父さんですね」と言うと、Hさんは「はっきり言ってまだ父親になる自覚がわかないんです。妊娠したことはうれしいけど、まだ父親ということは…。何か手伝わなければとは思うけど、今までと変わらない」と言っていました。
「奥さんのお腹が大きくなるのはどう思いますか?」と聞くと「ああ、大きくなったなぁとは思うが、それだけ。変なのかなあ? だけど、産まれたらいろいろ手伝ってあげたいんですよ」とおっしゃっていました。
Hさんは、父親になる自覚がまだまだわかないようです。でも、次に紹介する方たちのように、ある日、何かがきっかけになって気持ちが変化し始めることがあります。
両親学級に参加して目ざめたSさん
Sさんは最初、両親学級にしぶしぶ参加していました。しかし、講習で妊娠中の生活や栄養についての話を聞き、妊娠中の体の変化や大変さを知ると、自分に何かできることはないかと思い始めたようです。「そうだ、太り気味の妻に食事を作ろう」と、もらったテキストを見ながら食事作りに挑戦。初めは出産に立ち会うつもりではなかったSさんですが、両親学級がきっかけで気持ちが変化したそう。夫を連れてきて本当によかったと、奥さんは言っていました。
夢中で立ち会い出産をしたAさん
Aさんは「血がだめだから、立ち会い出産はできない」と言っていましたが、陣痛の間、ずっと奥さんについて腰をさすったり、献身的に前向きに取り組んでいました。お産が近づいて分娩室に移り、Aさんには分娩室の前で待ってもらうことに。扉の向こうから「がんばれ」と声をかけていたAさん、しまいには扉をあけて入ってきてしまいました。「このまま立ち会いしましょう」と言うと「無我夢中になって入ってしまいました。このままいます」と。その後も一緒に呼吸法をしたり、力んだりして、赤ちゃんが産まれた時は、Aさんが一番感動されていました。
赤ちゃんが生まれた後の夫の気持ち
妊娠中は、父親になる実感がわかないと言っていた人でも、赤ちゃんが生まれてきてから、強い愛情を感じるお父さんたちも多いものです。
男に生まれてくやしいとOさん
健診にいらしたOさんに、育児には参加していますか? とお聞きしたところ、このような言葉が返ってきました。「今までずっと会社人間でして、妊娠中だって特別何をしてあげたわけではなかった。お産も立ち会いませんでした。しかし、子どもと接するようになり、日々成長する我が子と向き合うようになってから、こんなおもしろい仕事(育児)はないと思いました。しかしくやしいことに、子どもはやっぱり母親の方に行くんですよね。まあしょうがないけど。できれば、私もお産を経験してみたい。男に産まれてくやしいよ」。隣にいた奥さんは、クスクス笑ってらっしゃいました。
立ち会い出産や育児に積極的な方・そうでない方、素直に自分の気持ちを表現できる方、そうでない方、さまざまです。お話を聞いて「そう思っていたのか」と初めて知ることもあり、奥さんも「そんな風に思っているとは知らなかった」と言う方もいました。妻や子どもに対する愛情は、いろいろな形で表現されているのですね。
今回、夫の協力というテーマで、どのような協力の方法があるのかを考えてみましたが、それは夫婦によって違います。あまり協力的でない夫が、いつどんな風に協力的になるのか、きっかけはいろいろあります。しかし言えることは、夫婦の会話を大切にし、お互いの思いを伝えることだと思います。そして赤ちゃんにも語りかけること。赤ちゃんはお腹にいるときから、2人の声を聞いていますからね。
(1999.12)