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加部一彦:子どもの生まれる現場から
> 【番外編】臍帯血バンクのこと

臍帯血バンクのこと

加部一彦:子どもの生まれる現場から

厳しい残暑が続いていたかと思えば、急に気温が下がってきたり…、これも異常気象のせいなのでしょうか?  さて、前回はおへそのケアについてお話ししました。今回は、「おへそ編」の番外として、最近話題の「臍帯血バンク」について紹介します。

「臍帯」とは、妊娠中の母親と胎児を結んでいる「へその緒」のことだということは、もうご存知ですよネ。「臍帯血」とは、そのへその緒(臍帯)の中と、胎盤に含まれる血液を指します。臍帯血は、基本的におなかの赤ちゃんが自分で作っている血液で、その中にはすべての血液細胞のもとになる「造血幹細胞」が、本来血液が作られる場所である骨髄の中と同じくらいの濃度で含まれています。  最近では、血液の悪性腫瘍である「白血病」などの治療法として骨髄移植が行われ、効果をあげていますが、移植のためには白血球の「血液型」とも言うべき、HLAが一致する必要があるため、そのような骨髄の提供者を確保することは大変難しいのが現状です。移植に必要な骨髄を提供する「骨髄バンク」は誕生したものの、十分な治療ができるにはまだまだ骨髄の提供者が十分確保されていないのです。

国内に8ヵ所ある臍帯血バンク

骨髄同様に「造血幹細胞」を多量に含みながら、出生後は単に捨てられてしまっている臍帯血を、何とか移植に使えないかというアイデアが生まれ、研究の結果、実際に臍帯血を利用しても骨髄移植と同様の治療が行えることが明らかになってきました。そして、骨髄バンクと同様に臍帯血を凍結して保存し、移植を希望する患者さんに提供する「臍帯血バンク」が誕生したのです。臍帯血バンクに提供される臍帯血は、赤ちゃんの出生後、まだ母体の中に胎盤が残っている段階で、産婦人科の医師によって臍帯の静脈から採血されます。赤ちゃんやお母さんから直接採血するのではないので、お母さんはもちろん、赤ちゃんにも全く苦痛はありません。  採血された臍帯血はそのまま冷蔵保管され、現在国内に8ヵ所ある臍帯血バンクに送られます。ただし、どこの産院でも臍帯血の提供ができるわけではありません。臍帯血の提供は、今のところ臍帯血バンクと提携している産科医療施設に限られますので、興味のある方は、その医療機関から臍帯血の提供が可能かどうか、あらかじめ産科の先生におたずねしておくのがいいでしょう。

新しい「いのち」が難病に苦しむ「いのち」を救う

臍帯血を利用した造血幹細胞移植は、まだ日本国内では始まったばかりで、移植例もそれほど多くはありません。しかし、アメリカやヨーロッパでは、すでに臍帯血バンクがネットワークを作って情報や血液の交換を行い、実際に臍帯血からの幹細胞移植も数多く行われています。日本でも、今年8月に国内8ヵ所の臍帯血バンクのネットワークである「日本さい帯血バンクネットワーク」が発足し、採取や保存方法の標準化などの作業が始まりました。今後、臍帯血の採取やバンクまでの運搬手順などが整備されて行くに従って、臍帯血の提供が一般的な光景になる日も、そう遠くないでしょう。少なくなったとは言っても、何しろ年間にはまだ118万人もの赤ちゃんが生まれるわけですから…。  「出産」は、赤ちゃんにとっても、お母さんにとっても「いのち」にかかわる一大事です。そんな「危機」を乗り切ったばかりの新しい「いのち」が、難病に苦しむ人たちに救いの手を差し伸べるなんて、なんと素晴らしいことでしょう。    今回は番外編として「臍帯血バンク」についてお話ししました。次回からは、また生まれたての赤ちゃんに話題を戻してお話ししたいと思います。  ご意見、ご感想、ご質問、ご要望など、何でも歓迎です。遠慮なく編集部までお寄せ下さい。

(1999.10)

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