「おへそ」の話

加部一彦:子どもの生まれる現場から

暑い日が続いていますが、バテ気味の方はいませんか?  さて、今回の話題は「おへそ」。そう、おなかの真ん中あたりで何となくユーモラスな存在の「おへそ」です。

お母さんのおなかの中では、赤ちゃんは臍帯(さいたい|へその緒のことです)で胎盤とつながり、胎盤を通じてお母さんから酸素や成長のために必要な栄養などを分けてもらっています。  ところで、皆さんはへその緒の断端をつぶさに観察されたことはありますか? そこには3つの血管の切れ端が見えるはずです。この3つの管(2本は動脈、1本は静脈です)を通じて、赤ちゃんは成長と発育に必要なものすべてをお母さんから受け取っているのです。もう少し情緒的な言い方をすれば、2つの命を直接「繋いで」いる、そう、母と子の「きずな」の象徴だともいえるでしょう。一部の産院や助産院では、出生に立ち会っているお父さんにへその緒を切らせたりしているようですが(これは厳密に言えば、法的に問題がある行為なのだそうです…)、へその緒を切るという行為には、単なる医学的な意味以上の感情があることを反映していると言えるのではないでしょうか。

大事なおへその手入れ

さて、役目を果たしたへその緒ですが…、病院では不要なものとして処分されてしまうのが普通です。もちろん、今でも施設によっては赤ちゃんのへその緒を小さな桐の箱に入れて渡してくれるところもありますが、たくさん生まれてくる赤ちゃんのへその緒を個人別にキチンと整理してお渡しすることはけっこう大変で、なくなってしまって大さわぎになるくらいならば、「へその緒を渡すのはやめよう」というところが増えてきているようです。  でも、日本には古くから言い伝えられているへその緒にまつわるお話も多いですし(例えば、命にかかわるといった大病の際にはへその緒を煎じて飲むといい…などですね。これは私の祖母がよく言っていました)、大人になってから見る「自分のへその緒」っていうのも、なかなかフシギなものです。記念にどうしてもほしいという場合には、あらかじめ病院のスタッフに相談しておいた方がいいですね。  へその緒が取れてしまった後のおへそ。生後しばらくの間は、このおへその手入れを怠ってはいけません。  へその緒は、だいたい生後1週間くらいのうちに乾燥して取れますが、取れた後もしばらくの間、おへその中はグチュグチュと湿っていることが多いのです。もともと、へその緒の根元の部分(赤ちゃんにくっついている部分)は体の表面から奥の方に引っ込んでいるので乾燥しにくいのですが、ここに黄色ブドウ球菌をはじめとした細菌がくっついて繁殖することがあります。一般に細菌は暗くてジメジメしているところを好みますが、オマケに体温でほどよく暖かいおへその奥なんて、彼らにとっては格好の「隠れ家」というわけです。最近の研究でも、赤ちゃんのおへそはブドウ球菌が最初に定着する場所として注目されています。 空気の乾燥する冬場は少ないのですが、暑い夏には、汗などで一層ジメジメ、グチュグチュがひどくなることが多くて、これをこのまま放置してしまうと大変です。おへその周囲の皮下組織に炎症を起こして、まるで富士山のように真っ赤に腫れあがるなんていうことになります。これが臍周囲炎(臍炎)で、こうなると免疫力の未完成な赤ちゃんにとっては、敗血症などの感染症に発展しかねない重大な事態ですので、入院して治療を受けなくてはなりません。

おへそのジクジクが長引くと…

おへその中がある程度乾燥してくるまでは、最低1日1回は、綿棒にアルコールをつけておへその中を消毒するようにしましょう。それから、ガーゼやおむつなどでおへそを完全に覆ってしまうのも乾燥の妨げになりますので、注意してください。おへその中に綿棒を突っ込むなんて、なんだか怖い…というお母さんも多いようですが、大丈夫。まかり間違っても、おなかの皮が破れてしまうなどということはありませんので、思い切ってやってみてください。おなかをいじられるので、赤ちゃんは多少嫌な顔をするかもしれませんが、特別、痛いこともないはずです。  1ヵ月健診近くになってもおへそから黄色っぽい液がにじんできたり、軽く出血することがあります。こんな時は、おへその中に「臍肉芽」という出血しやすい余計な組織が盛り上がってきていることが多く、その場合には、この余分な組織を薬(普通は硝酸銀を使います)で焼いてしまう必要がありますので、あまりおへそのジクジクが長引いているようでしたら、一度小児科に相談してみてください。  では、今月のお話はこれでおしまいです。皆さんからのご質問、ご意見をお待ちしています。

(1999.08)

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