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出生後の体重減少と黄疸 ?「黄疸」のはなし?

加部一彦:子どもの生まれる現場から

今回から「月刊ベビカム」もリニューアルされ、ベビカムmagとなりました。この連載も新たな気持ちで先に進めて行きたいと思います。

さて、今回は赤ちゃんの黄疸についてお話ししましょう。生後2?3日目ぐらいから、赤ちゃんの皮膚や眼球の白目の部分が徐々に黄色くなってくることがありますが、これは「黄疸」が起こっているためです。日本人を含めた黄色人種は、白色人種に比べて、出生後に黄疸が強く出る傾向にあり、実際、大半の赤ちゃんは目で見て「わっ、黄色い」と感じる程度まで黄色くなります(これを「顕性黄疸」と言います)。

大半の黄疸は治療が不要

しかし、多くの赤ちゃん、特に予定日前後までお母さんのおなかの中にいた成熟新生児に見られる黄疸の大半は「新生児生理的黄疸」と呼ばれる黄疸で、ほとんどの場合治療の必要はありません。赤ちゃんはお母さんのおなかの中では効率よく酸素を使うために、たくさん赤血球を作って多血症の状態にあるのですが、出生後、自分で呼吸ができるようになると、今度は余分になった赤血球を処分して行かなくてはなりません。この赤血球のリサイクルの過程で作られる物質が黄疸の原因となる「ビリルビン」です。通常、ビリルビンは肝臓から出る胆汁に混ざり、腸管から便となって排出されますが、生後間もないうちは肝機能や便通の関係でビリルビンの排泄が滞ってしまい、血中のビリルビン濃度が高くなってしまうのです。

生理的黄疸は通常生後5?7日ごろにピークを迎え、その後少しずつ退いて行きます。多くの施設では分娩経過に問題がなかった場合には、5日から1週間程度で母子ともに退院となることが一般的ですが、ちょうど赤ちゃんの黄疸がピークを迎えるころが退院日とぶつかってしまうことになります。このため、退院の当日になって黄疸で退院延期となる事があり、「黄色いな」と気にはしていたものの、その日になって家に連れて帰れないなんてことになって、お母さんがとてもショックを受けることも少なくありません。

黄疸は大抵の場合、治療は不要と書きましたが、血中のビリルビン濃度が一定のレベルを超えてしまった場合には、治療で安全なレベルにまで下げてやる必要があります。そもそも、ビリルビンという物質は神経細胞との親和性が高く、血中のビリルビン濃度が高いまま放置しておくと、将来的に聴力の異常や、核黄疸と言われる重篤な状態に陥り、深刻な後遺症を残してしまうことになります。そのために、どこの施設でも入院中は連日ビリルビンのモニタリングを行っています(モニタリングには採血をする場合と、特殊な機械を使って皮膚の表面からビリルビンを測定する場合とがあります)。そして、基準値を越えた場合には、青色や緑色の光を浴びせ、ビリルビンの性質を変化させて尿中へ排泄させてしまうという「光線療法」が行われます。光線療法は24時間がひとつの目安で、24時間光を浴びた後、どの程度血中ビリルビン濃度が下がったのかをチェックし、濃度が十分に低下している場合には治療を中止した後、さらに24時間入院観察を続けて、ビリルビンの再上昇がないことを確認します。このように適切に治療が行われれば、黄疸は決して怖い「病気」ではありません。むしろ、「生理的」という単語が意味するように、もともとはそれが起こることが「正常」であるとも言えるのです。

赤ちゃんの白目に注意

ただ、気をつけなくてはならないのは、この時期、病的な原因で生じる黄疸もあるということです。赤ちゃんに見られる黄疸が生理的な範疇のものなのか、それとも病的な原因が潜んでいるのか、それを見極めることが、私たち新生児科医の大切な仕事です。

多くの場合は退院する段階では程度に多少はあれ、黄疸が残っているのが普通です。でも、心配は無用。赤ちゃんの白目の部分に注目して下さい。黄疸があるときには、この部分も黄色く染まっていますが、血中のビリルビン濃度が下がる、すなわち黄疸が退いてくるのに伴って、徐々に本来の「白い白目」になって行くのがわかるはずですよ。でも、もし生後2週間経っても黄色さが変わらなかったり、黄色みが強まったような気がした場合には、病院に相談してみて下さいね。

ということで今月はおしまいです。黄疸については、もう少しお話ししたいこともあるのですが、また次の機会に説明しましょう。質問などありましたら、遠慮なく編集部までお寄せ下さい。

(1999.06)

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