予防接種のこれから

加部一彦:子どもの生まれる現場から

予防接種を取り巻く状況や考え方は、時代とともに変化し、常に正しい知識と情報をもったママの判断が求められています。小児科医の加部先生に、最近の予防接種事情についてお伺いしました。

経口接種のポリオワクチンも注射になる…?

最近でも、麻疹・風疹混合ワクチンの登場や日本脳炎ワクチンの接種差し控えなど、何かと話題に事欠かない予防接種ですが、今後、まだまださまざまな変化がありそうです。今回はこれからの予防接種について考えてみたいと思います。
予防接種といえば、イコール「注射」のイメージですが、ひとつだけ、シロップタイプの「飲むワクチン」があることをご存じですか? そうです。ポリオワクチンですね。日本では今でも「経口接種」で行われていますが、諸外国ではすでにポリオワクチンも「注射タイプ」に変更されています。現行のポリオワクチンは生ワクチンですから、ワクチンを飲んだ後に、赤ちゃんの便の中にワクチンに由来するポリオウイルスが排泄されます。実はこれが問題なのです。実際、自然界ではポリオウイルスは絶滅寸前で、特に日本では自然にポリオにかかってしまうことはまず考えられませんが、ポリオワクチンを飲んだ赤ちゃんから、赤ちゃんのお父さんやお母さんがポリオに感染してしまったというケースがぱらぱらと報告されています。それだけの理由ではありませんが、日本でもポリオのワクチンを注射にすることが予定されています。赤ちゃんにとっては唯一、「痛くない」予防接種だったポリオも注射に変わってしまうのは、迷惑な話でしょうが…。

日本ではまだ採用されていないHibワクチンの接種

もうひとつは、諸外国ではすでに行われているのに、日本では採用されていない予防接種、ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)ワクチンの接種です。ヘモフィルスインフルエンザb型菌とは、髄膜炎や肺炎を起こし、とくに乳幼児の感染症の原因として比較的頻度の高い細菌です。「インフルエンザ」ではありますが、冬場に流行する「インフルエンザ」とはまったく関係なく、こちらは細菌です(ちなみに、インフルエンザは「ウイルス」ですね)。Hibに限らず、細菌の抗生物質に対する耐性獲得が世界的な問題になっていますが、Hibワクチンを接種しておくことによって、抗生物質が効きにくいHibに対しても、感染しにくくなるというメリットがあります。

日本脳炎・B型肝炎の予防接種

2006年4月から麻疹と風疹に新たに混合ワクチンが導入されたことはすでにお話しました。ワクチンの切替えに伴って、現場では多少混乱が生じていますが、麻疹は今でも恐ろしい感染症ですので、忘れずに接種を受けて下さい。また、昨年来接種が中止されている日本脳炎ですが、こちらは当初「1年程度」で登場するとされていた新しいワクチンの登場が遅れているようです。ただ、現在、日本脳炎の流行は見られていないことから、もしかすると日本脳炎の予防接種はこのまま中止になるかもしれません。ほかにも、欧米では、最近、B型肝炎ワクチンを定期接種に組み入れる国が増えています。日本では、お母さんにB型肝炎の既往がある場合には、赤ちゃんにも保険でワクチンの接種ができることになっていますが、B型肝炎は肝細胞ガンとの関係も取りざたされている病気ですので、今後は日本でも定期接種に組み込まれるかもしれません。このほかにも、ワクチンといえば、こちらはウイルスの「インフルエンザ」。このところ、毎年のように冬になるとインフルエンザ絡みの話題で持ちきりですが…。今後も注意深く見守っていく必要があるでしょう。

(2006.05)

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