病気別・予防接種の事情
日本脳炎予防接種中止について

加部一彦:子どもの生まれる現場から

日本脳炎とはどんな病気なのでしょうか

先日、厚生労働省が突然、日本脳炎の予防接種中止を発表しました。今回はそれに関して整理したいと思います。
日本脳炎とは、日本脳炎ウイルスに感染することによって発症する、脳や脊髄など中枢神経系の感染症です。このウイルスに感染している豚(ちなみに豚は発症しません)を刺して血液を吸った蚊がヒトを刺すことによって、ウイルスが伝わります。感染者全員が脳炎を発症するのではなく、たいていは何の症状もない不顕性感染となります。感染してから発症するまでの潜伏期は約2週間で、発熱・頭痛・嘔吐などの症状が出ます。発症後、意識障害などの神経症状が急激に現れるのも特徴で、発症すると死亡や何らかの障害を残す危険が高いといわれています。

この病気は東南アジアを中心に見られ、日本でもかつては年間数千人単位で患者さんが発生していました。しかし1992年頃から患者数が激減し、今では発症者は年間数人まで減りました。患者さんのほとんどは中高年です。

日本脳炎の予防接種が突然中止された理由とは?

日本脳炎がここまで減った理由として「ワクチン接種の効果であり、現実に豚の感染が減っていない以上、接種をやめれば感染患者の増える可能性が高い」という意見がある一方で、「日本脳炎予防接種による脳炎・脳症などの重い健康被害を受けるのはほとんどが子どもだから、集団接種は不要」という意見もあります。

厚生労働省は日本脳炎ワクチンの副反応として「発熱、局所の発赤、腫脹、発疹、圧痛」に加えて、「ごくまれ(199万人に1人程度)にアレルギー性脳脊髄炎の発生も報告されています」という一文を最近追加しました。ワクチン接種後に見られる症状がワクチンの副反応なのかどうかを判断することは難しく、実際にはアナフィラキシー(接種後のショック状態など)や全身のじんましん、高熱など比較的重い副反応も起こる、という報告もあります。

そのような状況で今回、日本脳炎ワクチン接種の中止が唐突に発表されたため、現場ではかなりの混乱が生じました。厚労省によれば、ワクチン接種の中止が勧告されたのは、ワクチンの製造過程でマウスの脳を使っていることと、接種後の「急性散在性脳脊髄炎(ADEM)」の発症に“因果関係”があると判断されたため、とのことです。
すべての予防接種が危険だと
いうわけではありません

では、私たちはどうすればいいのでしょうか。まず、日本脳炎自体は現在、それほど感染の危険が高くないと理解することが大切です。ワクチン接種が中止されても、すぐに日本脳炎が流行するというわけではありません。マウスの脳を使用しないワクチンが新しく開発されるまでは接種を行わないで、引き続きこの件に関する情報に注意を払うように心がけてください。

また、これをきっかけに予防接種への不信感が深まり、日本脳炎以外のワクチン接種に消極的な方が増えるのではないかと心配です。たとえばはしかなどは、子どもたちにとって日本脳炎とは比べ物にならないほど危険な感染症です。すべての予防接種を避けるのではなく、常に正しい情報に基づき判断を行いましょう。

なお、今回の日本脳炎接種差し控えについては、厚生労働省のサイトに掲載されたQ&Aを参考にしてください(http://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/nouen/index.html)。

*予定を変更して急遽「日本脳炎予防接種中止について」を掲載しました(編集部)

(2005.08)

他のアドバイザーのコラムを読む

レギュラー

ゲスト

powerd by babycome