病気別・予防接種の事情
「はしか」について その1

加部一彦:子どもの生まれる現場から

予防接種率の低下からはしかが再び流行

これから数回に分けて予防接種の話をしていきたいと思います。今回は「麻(はしか)」についてです。はしかは「水ぼうそう」や「天然痘」と並んで、昔は子どもが大人になれるかどうかを左右しかねない、命に関わる危険な感染症でした。しかし今では、予防接種の普及や医学の発達、そして何よりも日本の社会全体が豊かになり、誰もがきちんとした治療が受けられるようになったことから、それほど怖い病気というイメージではなくなったように思います。
そのためでしょうか、最近の日本では「はしか」の予防接種率がかなり低くなっており、各地で再びはしかが流行するようになってしまいました。麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、抗体を持っていない人がウイルスにさらされると、90%以上が感染するといわれています。年齢的には発症のピークは1歳にあり、患者さんの半数は2歳未満ですから、今でも「子どもの病気」であるといえます。

はしかが発端となって子どもが亡くなることも

はしかは10~12日の潜伏期を経てから38度前後の発熱と倦怠感、不機嫌を伴って発症します。その後、せき、鼻水、くしゃみとなどの上気道症状や目の充血、目ヤニといった結膜炎の症状が次第に悪化していきます。乳児の場合は下痢や腹痛が見られることもあります。その後、発疹が出始めますが、1~2日前には、ほおの内側にコプリック斑と呼ばれる粘膜疹が現れます。
 特別な合併症がない限り、はしか自体は7~10日後には回復します。ただし、はしかの特徴として発疹がおさまった後も、しばらくは色素沈着が残ります。
 はしかが引き起こした肺炎と脳炎で赤ちゃんが亡くなることもあります。肺炎の原因としてはウイルスと細菌性肺炎の合併の二つがあげられます。ウイルス性肺炎にかかると呼吸状態が早期から悪化することもあるので、せきなどの呼吸器症状には注意が必要です。
 一方、脳炎は1999例に約1例の割合で合併し、一度かかると20~40%という高い確立で後遺症が残ってしまいます。致死率も約15%と低くはありません。そのほか、麻疹ウイルスに感染した数年後に「亜急性硬化性全脳炎」という特殊な脳炎を発症することがあります。これは知的障害や運動障害が徐々に進み、平均6~9カ月で死に至る疾患で、はしかにかかった10万例に約1例の発症率があるといわれています。

予防接種の副作用よりもワクチン非接種の方が危険

はしかはウイルス感染症ですから、かかってしまったら対症療法で症状を緩和することしかできません。それゆえ「感染予防」が大切です。しかし我が国の1歳児の麻疹ワクチン接種率は約50%ととても低く、患者さんのほとんどは予防接種を受けていません。
 近年、はしかで命を失う子どもは9~1歳児を中心に年間10人を数えています。そのため小児科学会や小児科医会が中心となってはしかの予防接種率を高めるキャンペーンを行なっています。ごくまれにワクチン接種の副作用で脳炎になったという報告もありますが、それは100万~150万接種に1例程度。副作用で脳炎を発症する確率は、麻疹脳炎の発症率に比べて低いのです。予防接種を受けない危険性に比べれば、副作用は大した問題ではないと知っておいてください。

(2005.05)

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