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予防接種について-その2
接種率はなぜ低下したか?

加部一彦:子どもの生まれる現場から

満開の桜もいつの間にか散ってしまい、平均気温も一段と高くなってきた今日この頃、皆さんは初夏の日ざしを満喫されているでしょうか。小児医療の現場も、心配されたSARS(重症急性呼吸器症候群)もなりをひそめ、インフルエンザも昨年ほどの流行が見られず、ホッと一息といった毎日です。

予防接種率の低下

さて、前回に引き続き、今回も予防接種について考えてみたいと思います。わが国には、病気の発生とまん延を予防することを目的として「予防接種法」という法律があり、この法律で予防接種の対象となる病気(「一類疾患」ジフテリア、百日咳破傷風、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎の7疾患。「二類疾患」インフルエンザ)が指定されています(この他の予防接種として、結核予防法に基づくBCG接種があります)。長い間、予防接種は保健所などで行なう集団接種方式で行われてきましたが、1995年からポリオとBCGを除いては個別の小児科医などによる個別接種方式に変更されました。
現在、いずれの予防接種でも接種率の低下が大きな問題になっていますが、集団接種から個別接種への変更が、接種率低下の一つのきっかけになったと考えられています。予防接種の接種率が低下した結果、麻疹(はしか)の流行が発生するなどといった事態が生じていますが、予防接種率の低下の原因は単に接種方法が変わったということだけなのでしょうか?予防接種を巡っては、その効果や副作用を巡って専門家だけでなく、様々な立場の人たが賛否両論で意見を戦わせており、一体「なに」を信じればいいのか困ってしまうのが現状です。

拭いきれない不信感

予防接種に関しては、これまでにも何回か副作用やワクチン接種に伴う健康被害が問題となってきました。1989年から使われた新三種混合ワクチン(麻疹+風疹+流行性耳下腺炎-おたふく)による無菌性髄膜炎の発生や、ワクチンの安定剤として加えられていたゼラチンによるアレルギー症状やショックの発現といった問題を記憶している方も少なくないでしょう。特に新三種混合ワクチンのトラブルは、明らかに予防接種率を低下させたといわれています。
これらのトラブルに関しては、もちろん対策がなされていますが、その間の経緯や情報公開のあり方の問題から、残念ながら予防接種にまつわる不信感が拭いきれていないのが現実ではないでしょうか。加えて感染症に対する保護者の意識の変化も大きな問題です。かつては数万人から数十万人規模で流行し、多くの子ども達のいのちを奪ったり深刻な後遺症を残した感染症も、社会全体が豊かになり、医療環境も整備された昨今、以前ほど恐ろしい存在として意識されていないように思います。
ある調査によれば、予防接種の接種率は、対象となる子どもの母親の年齢が低いほど低下しており、予防接種に対する関心度が低いことが示唆されています。また、女性の社会参加が進んだ今、限られた時間の中で父母が予防接種に子どもを連れて行くことが難しくなっているという状況も考えられます。この様な事情が重なりあった結果、「まぁ、ウチの子一人くらい接種しなくても…」と予防接種の接種率はどんどん低下したのではないでしょうか。

子どものために

行政や医療専門家に対する不信感は一朝一夕では解消されません。しかし、予防接種を受けなかったことによって病気にかかり苦しむのは、多くの場合、小さな子ども達であることも忘れてはなりません。
では、どうすればいいのかということですが、一つ一つの予防接種について、いま「なに」がわかっていて、「なに」が問題なのかをできるだけ正確に知り、その上で小児医療の専門家とも相談の上で予防接種を受けることが必要なのではないかと思います。
単に「予防接種や専門家が信じられないから」などの理由で判断されているのだとしたら、子ども達にとってこんな不幸なことはないのではないでしょうか。
次回からは個別の病気について、順に考えていきたいと思います。

(2004.05)

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