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加部一彦:子どもの生まれる現場から
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赤ちゃんのスクリーニング検査─その3

加部一彦:子どもの生まれる現場から

前回、前々回に引き続き、今回も新生児スクリーニング検査についてお話しします。

スクリーニング検査の有効性を考える

前回は産科施設を退院する際に行なわれる先天代謝疾患に関するスクリーニング検査についてお話ししました。

皆さんは「赤ちゃんの検査」と聞くと何が思いつきますか?現在すでに1歳以上のお子さんを育てている方は「そうそう、6カ月ごろにおしっこの検査があったはず」と思い出されたのでは……。1985年から子どもの悪性腫瘍の一種である「神経芽細胞腫」の早期発見の目的で行なわれていたのがこのおしっこの検査でした。しかし、その後の研究でスクリーニングを行なっても、必ずしも病気の早期発見にはつながらないという研究結果が得られたことから、この病気を対象としたスクリーニング検査は見直されることになりました。スクリーニング検査の対象となる赤ちゃんは非常に大人数です。その一方で、スクリーニングの対象となる病気に罹る赤ちゃんの数はそれほど多くない。ここにスクリーニング検査の「有効性」という問題が潜んでいるワケです。

「新生児聴覚スクリーニング検査」登場

さて、行なわれなくなった検査がある一方で、最近新たに登場した検査もあります。それが「新生児聴覚スクリーニング検査」、そう、赤ちゃんの「耳の聞こえ」に関する検査です。

この検査はもともとアメリカで始まったのですが、予定日前後で生まれる全く健康な赤ちゃんを対象とした聴覚検査で、生まれながらに聴覚に異常のある赤ちゃんが1人/1999人と、想像以上にたくさんいるということがわかってきました。言葉を獲得するために、耳が聞こえるということはとても大切なわけですが、言葉をきちんと聞き取れるようにするためにも、聴覚の異常をより早い時期に発見し、早くから補聴器などを使った治療を始めたほうが言葉の獲得によい影響が得られるということもわかりました。そこで始まったのが成熟新生児を対象とした「新生児聴覚スクリーニング検査」です。

スクリーニングにはいくつかの方法がありますが、いずれの場合も赤ちゃんが寝ているときに音を聞かせて、それに対する脳波などの反応を見ることで判断します。検査機器は自動化されていて、検査時間は数分から十数分。赤ちゃんには痛みなどの負担は全くありません。

この検査は、今のところまだ自費で行なわれる検査で、必ずしも全ての産科医療施設で実施できる体制にはなっていませんが、近い将来には先天性代謝疾患のスクリーニング検査同様に、国の補助の元に行なわれる予定です。

聴覚の療養体制の現状と今後は

スクリーニング検査で異常が発見された赤ちゃんに関しては、より精度の高い機械での聴覚検査が行なわれ、それで異常が確認されれば専門機関での治療と経過観察が行なわれます。問題は今のところ、赤ちゃんの聴覚に関して治療が行なえる専門施設が非常に限られてしまうということです。

現在、各地の自治体を中心に聴覚の療養体制の整備が進められつつありますが、体制の整備に先だってスクリーニング検査が始まってしまったことにより、診断はついても十分な対応のできないケースが生じてしまっていることは大きな問題です。

今後、この検査を実施できる医療機関が増えるにしたがって、スクリーニングで「異常」と指摘される赤ちゃんも増えてくることと考えられ、今のうちに十分な療育の体制が整えられる必要があります。

(2003.11)

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