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加部一彦:子どもの生まれる現場から
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赤ちゃんのスクリーニング検査─その2

加部一彦:子どもの生まれる現場から

前回に引き続き、今回も新生児スクリーニング検査についてお話しします。

新生児スクリーニング検査の対象となる疾患は、診断が確実かつ容易に行なえること、有効な治療法があること、治療によって本人にメリットがあること、未治療の場合には重大な問題が生じる疾患であること、ある程度の発生頻度が確認されていること、などによって選択されています。現在対象疾患は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)ほかの計6疾患であることは前回お話ししました。今回はこれらスクリーニング対象疾患の中でも発生頻度の高いクレチン症と先天性副腎皮質過形成症についてお話ししたいと思います。

クレチン症について

クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は生まれながらにして甲状腺の機能が低下している疾患で、その原因は甲状腺の形成異常にあると考えられています。そのため、赤ちゃんは胎児期から甲状腺ホルモンが不足した状態にあり、出生後早期から治療を開始しないと知的障害を中心とした著しい成長発達障害を生じる可能性があります。スクリーニング検査では、赤ちゃんのかかとから採血した血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)というホルモンの値を測定していて、このホルモンの値が基準値よりも高い場合に精密検査が必要となります。クレチン症の発生頻度は1/6999と言われていますが、TSHが高い値になるのはクレチン症以外にも一過性高TSH症、一過性甲状腺機能低下症などと言った一過性の疾患があり、この場合にもスクリーニング検査は異常となります。スクリーニングの結果が異常となった場合、赤ちゃんは2次的な検査を受けることになります。この場合、最初のスクリーニング検査と全く同じ方法で再度検査を行なう場合と、赤ちゃんの採血を行なってTSHを含むいくつかの甲状腺関係のホルモンを測る場合とがありますが、そのような場合には、主治医の先生によく相談してくださいね。クレチン症やその類似の疾患がある場合、赤ちゃんの黄疸が長引いたり、筋力が低下するなどの症状が認められる場合もありますが、逆に明らかな甲状腺の機能低下があっても、赤ちゃんに何の症状も認められないことも少なくありません。また、結果的に甲状腺機能の異常が一過性であったとしても、赤ちゃんの発達に対する影響がないとまでは言えないために、TSHの異常が確認された段階で治療が開始されることが一般的です。

先天性副腎皮質過形成症について

スクリーニング対象疾患の中でクレチン症に続いて頻度の高い疾患が先天性副腎皮質過形成症です。この疾患では副腎皮質に形成の異常があるため、副腎から分泌されている糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドというホルモンの分泌不全が生じます。この2つのホルモンは、生命を維持するうえで非常に重要なホルモンであり、未治療のまま放置することは、突然死など生命の危機に直接つながる可能性があります。スクリーニングでは、血液中の17OHPという物質を測定していますが、もともと血液中にはわずかにしか含まれていないことや採血時の条件などから、スクリーニング検査で異常となっても再検査では正常であることも少なくありません。臨床的には、外性器の異常や全身の色素沈着(特に唇や陰嚢、陰唇に色素沈着が目立ちます)、体重増加不良、嘔吐・脱水などといった臨床症状から発見されますが、スクリーニング検査の異常以外には全く何の症状もない赤ちゃんもいます。スクリーニング検査の結果から日本におけるこの疾患の頻度は1/18999~29999であると言われています。

ホルモン補充療法を根気よく

これらの疾患の治療は、異常によって失われてしまったホルモンを薬の内服によって補う「補充療法」が中心です。小さな赤ちゃんに長期間、ホルモンの薬を服用させること自体、ご家族にとっては大変心配なことと思いますが、現在では補充療法によって、赤ちゃんの順調な成長発育が得られることがわかっていますので、根気よく治療を続けてくださいね。

次回も赤ちゃんのスクリーニング検査のお話を続けたいと思います。

(2003.08)

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