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加部一彦:子どもの生まれる現場から
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赤ちゃんのスクリーニング検査─その1

加部一彦:子どもの生まれる現場から

今回は出生後に赤ちゃんに行なわれている「スクリーニング検査」についてお話したいと思います。「スクリーニング検査」とは、ある集団(例えば、赤ちゃんのスクリーニング検査では「生まれたばかりの新生児」が対象になります)全員に対して検査を行ない、検査の対象となる疾患を発見するために行われるものです。

現在、赤ちゃんのスクリーニング検査は、容易に行なえて、確実に診断できる方法があること、有効な治療法や治療体制があること、放置すると重大な障害を伴う疾患であることなどの理由から、生後5~7日目に行なう先天代謝異常症の検査と、生後6カ月を過ぎてから行なう神経芽細胞腫の2つのスクリーニング検査が行なわれています。中でも、先天代謝異常症のスクリーニング検査は、出生した赤ちゃんの実に99%以上、ほぼ全員が受けているという、非常に受検率の高い検査になっています。さらに、この2つの検査に加えて最近では新生児の聴覚スクリーニング検査も始まっていますが、こちらはまだ全国規模で行なわれるところまではいっていません(聴覚スクリーニング検査に関しては、回を改めてお話します)。

スクリーニング検査のプロセス

現在、多くの施設では帝王切開で生まれた場合などを除き、正常新生児は日齢4~6日目に退院していることと思いますが、退院する日(病院によってはその前日)に赤ちゃんのかかとにバンドエイドが貼られているのに気がついた方もいらっしゃることでしょう。赤ちゃんの採血はかかとから行なわれるのが一般的で、たいていの医療機関では退院前日にスクリーニング検査のための赤ちゃんの採血を行なっています。かかとから採血された血液は、ハガキ大ほどの大きさの検査用濾紙に染み込ませて乾燥の後、各自治体にある代謝疾患スクリーニング検査センターへ送られ、一括して検査が行なわれます。検査結果が病院に戻ってくるまでにはおよそ1カ月かかるため、多くの医療機関では1カ月健診の時にあわせて検査の結果が渡されていると思います。スクリーニング検査では、病気の可能性を見つける幅を多少広めに設定していることから、時に「再検査」となる場合があります。その場合には、1カ月健診よりも前に医療機関から連絡が来て、再度、同じ方法(かかとから採血して濾紙に染み込ませる方法)で検査を行ないます。再検査の結果、再び異常となった場合には、改めて専門医療機関での精密検査を受けることになります。

検査対象と発生率

このスクリーニング検査の対象となっている疾患は現在次の6つです。

疾患           発生頻度(人/出生)
先天性甲状腺機能低下症  1/6,000
先天性副腎過形成症    1/20,000
フェニルケトン尿症    1/120,000
メープルシロップ尿症   1/600,000
ガラクトース血症     1/930,000
ホモシスチン尿症     1/1,040,000

どうでしょうか。対象となっている疾患のうちで最も頻度が高い先天性甲状腺機能低下症でもその発生頻度がかなり少ないことがわかりますね。いずれの疾患も、このように発生頻度としてはかなり「まれ」な病気の部類に入る病気なのですが、いずれも早く発見することにより早く治療が開始できれば、それだけ生命の危険や予後を改善することが可能です。生まれたばかりの赤ちゃんに、それも何だか聞いたこともないような病名ばかりの検査で、どれも「まれ」な病気だとくれば、わざわざ痛い思いをさせてまで検査を受ける必要があるのかとお考えになる方もいらっしゃるかと思いますが、数は少ないとは言え、未治療で経過した場合の予後や治療法が確立されていることを考えると、検査を受けるメリットの方が高いと思います。

次回はスクリーニングの対象となっている疾患のうち頻度が高い、いくつかの疾患について、もう少し詳しくお話したいと思います。

(2003.05)

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