正月早々東京にも雪が降るなど、いつになく寒い冬となっていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今年はインフルエンザもA型とB型が同時期に流行しており、どっちも罹ってしまったなどという人もいらっしゃるようです。また、昨年末来ずっと、子どもの流行性下痢症も相変わらず乳児を中心にみられています。中には年末からずっと病院通いが途切れないなどという赤ちゃんもいるのでは?小さいうちはどうしても病気がちであることも少なくないとはいえ、あまりにしつこいと周りの大人も参ってしまいますよね。
神経発達の指標となる「原始反射」
さて、今月は赤ちゃんの神経発達の指標となる「原始反射」についてお話ししたいと思います。「反射」は神経系の働きをみる指標として、どの年代でも参考にされます。たとえば、膝の少し下を軽くたたいて、その反応をみる「膝蓋腱反射」は有名ですね。「反射」には中枢神経や末梢神経の働きが反映されており、「正常ではみられるはずの反射がみられなくなった」とか、逆に「正常ではみられない異常な反射が出現した」など、反射の出現の仕方から、診断に有用な多くの情報を得ることができるのです。
「反射」は神経系の発達と密接な関係があるため、出産後から1~2歳までの間、発達段階に応じてさまざまな種類の反射が消失したり新たに発現したりします。それらの中でも「原始反射」は赤ちゃん特有の反射で、生後すぐに出現し、月齢の経過に従ってだんだんと消えてゆく反射です。そんな「原始反射」をいくつか紹介しましょう。
「ルーティング反射」と「吸てつ反射」
「ルーティング反射」は、出生直後から5カ月ぐらいまでの間みられる反射で、赤ちゃんのほっぺたに触れると(ひとさし指でほっぺたをトントンとたたくとよりはっきりとわかります)、刺激された方向に頭を回すという反射です。赤ちゃんのほっぺたに乳首が触れると、この反射によって赤ちゃんは自然に乳首の方向に頭を回します。
「吸てつ反射」もおっぱいに関係した反射です。赤ちゃんは唇に触れたものはなんでも吸おうとしますが、それはこの反射があるためで、やはり生後4~5カ月の間、みられる反射です。この二つの原始反射は、赤ちゃんが授乳をする際に実際に役割を果たしている反射と考えられます。
頚のすわりにしたがって消えゆく「モロー反射」
最も有名な「原始反射」は「モロー反射」ではないでしょうか。出生の直後から、頚のすわる6カ月ぐらいまでみられる反射で、赤ちゃんの顔を正面に向けて上体をちょっと起こした後、頭を急に落とすように動かすと、赤ちゃんは両腕を大きく延ばして、「ばんざい」をするようにひろげた後で、ゆっくりと何かに抱きつくように抱え込む動作をします。この一連の動きが「モロー反射」です。大きな音や振動に対しても、ビックリしたようにこの動作が認められることがあります。これは、その昔は驚いたときに赤ちゃんがとっさにお母さんにしがみつくために有用な反射であったと考えられています。今では、この反射そのものには特別な役割はありませんが、この反射は頚のすわりにしたがって消えてゆくことから、乳児早期の神経発達の観察ポイントとして利用されています。また、この反射は左右対称にみられるので、お産の後に上腕神経の麻痺が起こった場合には、麻痺のおこった側だけ反射が消失してしまうなどと、発見のきっかけにもなることがあります。
5~6か月までみられる「緊張性頸反射」
「緊張性頸反射」もその特徴的な動きから、赤ちゃんの神経系に異常があった場合に発見のきっかけとなることが多い原始反射です。この反射も出生直後から出現し、生後5~6か月までみられます。仰向けに寝ている赤ちゃんの顔をゆっくりと回すと、顔の向いてる方の手足をまっすぐ伸ばし反対側の手足を曲げて、丁度フェンシングをしている様な恰好になると言う反射です。この反射がみられなかったり、極端に身体を反らせてしまうなどと言うことがあると、ちょっと注意が必要です。
歩き出すようにみえる「自動歩行」反射
赤ちゃんの脇の下を支えて両 足を床につけ、ちょっと前かがみにさせると、あたかも赤ちゃんが歩きだすような足の動きをします。これも「原始反射」の一つで、「自動歩行」と言われる反射です。この反射は、生まれた直後からみられますが、2か月前後と言う短期間で消えてしまう反射です。生まれたての赤ちゃんが、あたかも歩く様に足を動かすしぐさはちょっと不思議で、また可愛くもありますが、だからと言って、「自動歩行」をさせられるのは、本人にとってはいい迷惑かもしれないですね。
神経の発達には個人差が大きい
原始反射が消えてゆくのは神経系統の発達に関連していますが、神経の発達には個人差が大きく、遅れているのかどうかを判断することは簡単ではありません。赤ちゃんの発達は一人ひとり違ってあたり前です。「隣の赤ちゃん」と比べて心配することにはそれほどの意味はないことをぜひ理解してくださいね。
ということで、今月のお話はおしまいです。いつもの通り、この連載に関するご質問、ご要望を編集部まで遠慮なくお寄せください。
(2003.02)