赤ちゃんが生まれた日

加部一彦:子どもの生まれる現場から

こんにちは。体調はいかがですか?暑い夏を乗り切り、おなかの赤ちゃんもますます元気いっぱい、順調に大きくなっていることでしょう。
先月は赤ちゃんが生まれる「場所」についてお話ししました。「赤ちゃんを生む場所を選ぶ」というのは、簡単そうでいてなかなか難しいことですよね。このお話はいずれまた回を改めて取り上げたいと思っていますので、みなさんのご意見をどんどんお寄せください。さて、今月の話題は…「赤ちゃんが生まれた日」です。

さて、みなさんもご存知のことと思いますが、今、日本で生まれる赤ちゃんの数は年々減少して、東京都に限れば、ついに年間10万人を割り込むところまできてしまいました。そんな中、みなさんは赤ちゃんがやってくることを楽しみに(そして、チョッピリ不安に)待たれていることでしょう。ここでは、赤ちゃんが生まれる周辺で起こる様々なできごとについて、思いつくままに紹介していこうと思っています。その中には、もしかすると産院の母親学級では聞けないような話もあるかも(あまり脅かしてもいけないですね…)しれないですが、できる限り率直に、今、赤ちゃんの周りで起こっていることをお伝えしていきたいと思います。「こんなことが知りたい」、「あんなことも聞きたい」なんてことがあったら、ぜひ、遠慮なくお寄せください。

まだ妊娠中のみなさんは、赤ちゃんの話を聞かされてもなかなか具体的なイメ?ジが浮かばないかもしれないし、それよりも何よりも今はこの先の妊娠経過や分娩の方がはるかに気がかりかもしれませんね。それももちろん大切なことですが、今回はチョット先に目を向けて、今、まさに「赤ちゃんが生まれた!」というところから話を始めてみたいと思っています。

赤ちゃんは、お母さんのおなかから出てきたあと、一声大きな声で産声(うぶごえ)を上げます。おなかの中にいる時には、羊水という「水」の中に浮かんでいたわけなので、生まれてすぐの赤ちゃんの口の中や鼻の中には、この「羊水」が詰まっていることが普通です。多くの場合、出生の直後に赤ちゃんの鼻や口の中の吸引をしてあげるのですが、中には生まれると同時に元気に泣き声を上げて、吸引する間もなかった…なんていうことも起こります。そんな時には、「ゴロゴロ、ガラガラ」と、うがいしているみたいな泣き声になってしまうこともあるんですよ。

おなかの中の赤ちゃんは、自分の力で呼吸をしていません。必要な酸素はへその緒を通じて、みんなお母さんからもらっているからですね。でも、一度おなかの外に出てしまうと、あとはもう、すぐに自分で呼吸をしなくてはならないのです。これって、結構大変なことなんです。もし、何らかの理由で、おなかの外に出てきたのに呼吸ができない(始まらない)ということが起こったら…そのような状態を「仮死状態」と言い、すぐに必要な手当てを行わなくてはなりません。 もっとも、普通の妊娠経過で生まれてくる赤ちゃんでは、「仮死状態」を心配する必要はありません。不思議なもので、赤ちゃんにはちゃんとおなかの外に出たのだ、ということがわかり、自分で呼吸が始まるようにキチンとプログラムされているのです。

さて、産声をあげた赤ちゃんはその後、「インファント・ウォーマー」というヒーターで保温されたあたたかい台の上に移されて、身体を拭いたり、へその緒を短く結んだりといった処置を受けます。この時もまだ、元気に泣いている子が多いですが、周囲をまぶしそうに、不思議そうにゆっくりと見回したりしている子もいます。出生後の赤ちゃんは、しばらくの間意識がはっきりと醒めている時間をすごすことが知られていますが、この間に、お母さんの胸に抱かれたり、おっぱいをふくませてあげたり、母と子の文字通り「最初の触れ合い」ができるといいですね。また、最近は分娩に立ち会う男性も増えていますが、ビデオや写真を撮ることに夢中になり、この貴重な時間をお母さんだけのものにしている新米お父さんをしばしば見かけます。いや、もったいない! ここは、ぜひお父さんも生まれたばかりの我が子を胸に抱いて、ゆっくり赤ちゃんに語りかけてあげてくださいね。

生まれたあとの時間をお母さんとすごした赤ちゃんは、その後「新生児室」に移されて、そこで出生後最初の24時間をすごすことになります。実は、この「最初の24時間」はとても大切な時間なのです。おなかの中と外とでは、赤ちゃんを取り巻く環境は全く違います。呼吸ばかりでなく、血液の巡り方もおなかの中と外とでは違っているのです。そして、おなかの中の環境から外の環境への「適応」が、誕生後、最初の数日間をかけてゆっくりと行われてゆくのですが、その中でも最初の24時間には様々な変化が見られます。このおなかの外の環境への「適応」をスム?ズに進めること、それが僕たちの「新生児室」での大切な仕事です。

生まれて8時間も過ぎると、気の早い赤ちゃんはもうおなかをすかせて泣き始めます。さあ、いよいよ授乳の始まりですね。まだ、お産の疲れも取れていないのに、赤ちゃんは待っていてくれません。ここからの1?2カ月が一番体力的にもキツイところだと言います。でも、肩の力を抜いて、ゆったりとした気持ちですごしてくださいね。「新生児期」と言われる貴重な時間はあとにも先にもこの短い時間だけなのですから……。

と、いうことで今月のお話はおしまいです。来月も生まれたての赤ちゃんの日常についてお話を続けたいと思います。
では、また…。 みなさんのご意見をお待ちしています。

(1998.9)

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