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加部一彦:子どもの生まれる現場から
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新生児医療とNICU(新生児集中治療室)

加部一彦:子どもの生まれる現場から

新しい千年紀の最初の年だったというのに、内外ともに明るい話題の乏しかった2001年が終わり2002年がやって来ました。手塚治虫さんが描かれた漫画では「鉄腕アトム」は2003年に誕生することになっていますが、「空飛ぶ車」もロボットもまだまだ夢物語の現在、今年はどんな年になるのでしょうか。

この連載も回を重ね、今回で18回目になりました。「生まれた直後から生後28日目」までの「新生児期」の赤ちゃんについて、育児書などではあまり取り上げられて来なかったことを紹介する目的で始めたのですが、改めて整理してみると、まだまだ書かなくてはならないことがたくさん残されているようです。と、言いつつ、今回は趣向を変えて番外編をお送りします。

赤ちゃんのER(緊急救命室)で

実は1月末に1冊の翻訳書を出しました。ピューリッツアー賞を受賞したこともあるアメリカ人ジャーナリストのエドワード・ヒュームス氏が書いた『Baby ER』という本です。

この本は、タイトルが示すように「赤ちゃんのER(緊急救命室)」(…と言ういい方は現実はあまり使われていないのですが…)での出来事をつづったノンフィクションで、NICUを舞台に、そこに入院する赤ちゃんと家族、そしてそこに働く医療スタッフの人間模様が克明に描かれています。モチロン、物語の舞台はアメリカのNICUですから、保険制度など細かな点では日本の事情と異なることも多いのですが、こと「人間模様」に関しては私が毎日過ごしている日本のNICUと驚くほど、いや、日本のNICUそのものと言ってもいいぐらいのお話が繰り広げられています。

NICUはどこの病院でも関係者以外には閉ざされた病棟ですから、多くの人にとって、あのドアの向こう側で何が起こっているのかを知る機会はほとんどないわけです。そんなNICUの日常をみなさんに知っていただくにはかっこうの物語りだと思い、翻訳に取り組みました。

保育器、人工呼吸、心拍呼吸モニター…

多くのみなさんにとって、NICUは縁のない世界だと思います。赤ちゃんの98%は正常の妊娠経過で予定日の前後に元気に生まれて来ます。しかし、わずかとは言え、生まれながら、あるいは、生まれる前から医療の手助けが必要な赤ちゃんがいます。その様な赤ちゃんのお世話をするところ、そこが新生児集中治療室・NICUです。

愛育病院のNICUでは、保育器や人工呼吸器、心拍呼吸モニターなど、様々な医療機器に囲まれて、在胎22週500g前後で生まれた小さな赤ちゃんから、時には5kg近くもある大きな赤ちゃんまで、年間290人ほどの赤ちゃんがここで人生最初の試練と闘っています。

現在、日本の新生児医療は世界でもトップクラスの水準にあって、1000g未満という本当に小さな赤ちゃんでもその90以上が生存退院し、80%近い赤ちゃんがまったく何の問題もなく育つところまで来ています。もちろんすべてがハッピーエンドに終わるわけではありませんが。

先天的な内臓奇形や染色体の異常など、「生まれてくる」ことがそのまま「死」を意味してしまう、なんとも不条理な出来事も決して珍しいことではないのです。

赤ちゃんが生死をかけて闘う

小さいうちに何らかの処置をしなくてはならないのは、包皮の出口が小さすぎて、おしっこをするときの妨げになっている場合(例えば「力まないとおしっこが出ない」といった状態です)や、包皮の中側の炎症である包皮炎が繰り返しおこる場合などに限られます。子どものおちんちんにまつわるトラブルの中で最も多いのは、この包皮炎でしょう。

人が生死をかけて闘うところ…そこには必然的に人間が織りなすドラマが生まれます。NICUの主人公は赤ちゃんですが、生まれたての我が子を見守るお父さん・お母さん、そして兄弟や家族、働く新生児科医や看護スタッフのNICUの毎日は、ハイテク医療機器に囲まれた環境からは想像もつかないほど、ある時は笑いにあふれ、またある時は悲しみに満ちた何とも人間くさい世界なのです。

私は以前からそんなNICUの人間的な側面をぜひ紹介したいものと考えていたのですが、残念ながらそれを表現するだけの文章力がなく、とても残念に思っていました。そんなワケで、今回、この『Baby ER』との出会いは偶然とは思えず、運命的なものを感じています。ぜひ、多くのみなさんに手にとっていただき、感想をお聞かせいただければと思っています。

(2002.02)

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