21世紀は久々に冬らしい冬で始まりましたね。東京でも久しぶりに雪景色が何度も見られました。と、思っていたら、あっという間に桜が咲いて、そして、あっという間に散ってゆきました。桜が終わると、もう春本番です。みなさんの周辺でも、何か新しい変化が起こっていませんか?さて、だいぶ間があいてしまいましたが、赤ちゃんの血液にまつわる話を続けましょう。今回は、赤ちゃんの貧血についてお話したいと思います。
お腹の中の赤ちゃんの赤血球
お母さんのお腹の中にいる時、赤ちゃんはへその緒を通じてお母さんから栄養だけでなく、酸素ももらっています。肺から空気中の酸素を呼吸によって取り込むのと違って、赤ちゃんはお母さんの体を通してもたらされる限られた酸素しかない環境で育っているのです。
このため、赤ちゃんは、大人の赤血球に比べて酸素とくっつきやっすく、また手放しにくいという特徴を持った「赤ちゃん型赤血球」(「けちん坊赤血球」などと説明することもあります)を、数も生まれた後よりも多めに持つことによって、少ない酸素を効率良く利用して上手に適応しているのです。しかし、生まれてしまえば空気中にある酸素を十分に利用することができるので、このような特別な対応は必要がありません。
そこで、出生後に赤ちゃんの身体の中では「赤ちゃん型赤血球」から「大人型赤血球」への入れ替えが始まるのです。その過程で、赤ちゃん型赤血球は分解されてリサイクルされるのですが、この過程で作られるビリルビンという物質が、赤ちゃんに黄疸をもたらすことはすでにお話しましたね。
貧血は「あかんべ」で見分けられる
このような「赤血球の入れ替え」メカニズムは、正期産(在胎37週以降に生まれた赤ちゃんのことです)で生まれた「成熟児」だけでなく、早産で生まれた未熟児の赤ちゃんでも同様に働きますが、未熟児で生まれた赤ちゃんでは、血液を作る機能も未成熟であることや、小さく生まれたことで、出生後に血液の検査を受ける機会が多いことなどから、貧血になることはまず避けることができません(早産で生まれる赤ちゃんについては、いずれ回を改めてお話しましょう)。
一方、成熟児の赤ちゃんは、何か特別な理由(前回お話した「Rh式血液型不適合」などによる溶血が起こった場合など)がないかぎりは、通常、治療や経過観察が必要な貧血になることはありません。外来でお母さん方から「顔色が悪いので貧血ではないか」と相談されることがありますが、本当に貧血であることは少ないです。
貧血があるかどうかを調べるには、最終的には採血によって赤血球の数を数えたり、血色素の量をはかるしか方法はありません。出生後は、赤血球の数も血色素量も多めですが、日が経つにつれて変化して行き、だいたい赤血球の数で389~559万/ml、血色素量(「ヘモグロビン」といいます)で9・5~14・5mg/dlと言ったところに落ち着きます。
痛い採血をしなくとも、もっと簡単に貧血を見分ける方法は、赤ちゃんの下のまぶたをちょっと引っ張って、「あかんべ」をしてみることです。まぶたの内側、結膜の色が赤かったら、まあ、心配はないでしょう(ご自分の結膜と比べてみるとよくわかりますよ)。逆に「白っぽく」見えるようでしたら、乳児健診の機会などに相談してみてください。
生後8~9カ月以降は貧血にも
赤血球の主な材料は鉄です。赤ちゃんは、お母さんから材料の鉄を十分にもらって生まれてきますが、生まれた後は、母乳やミルクから鉄分を補給しないとなりません。しかし、母乳やミルクから摂取できる鉄はそれほど多い量ではなく、離乳食への切り替えがうまく進まないと、生後8~9カ月以降は貧血になることがありますので、離乳食を食べられる月齢になったら、食事の内容にも気を配る必要があります。母乳に含まれる鉄はそれほど多くはありませんが、貧血を指摘されたりしていなければ、特別に鉄分を補給する必要はないと考えられています。
特別な病気をのぞき、赤ちゃんにみられる貧血は、材料である鉄が不足したために起こる「鉄欠乏性貧血」です。そのために、治療は鉄剤を飲ませるなどといった、補充療法が行われます。
未熟児の赤ちゃんでは、血液を作る機能自体が未成熟であることから、エリスロポエチンと言う血液を作ることを促す働きを持つホルモンを、与える治療が行われています。もちろん、輸血によって直接血液を補充してあげるのも有効ですが、輸血も広い意味では「臓器移植」の一種であり、血液を介した感染症など難しい問題もあるので、できる限り避ける工夫をするのが最近の流れです。
さて、赤ちゃんと血液に関するお話は今回でひとまず終わりにして、次回は赤ちゃんの骨格、特に頭の骨の話をしましょう。いつもの通り、この連載に関するご質問、ご要望をお待ちしています !
(2001.04)