心雑音が聞こえる!

加部一彦:子どもの生まれる現場から

本格的に暑くなってきました。暑いとつい冷房の効いた部屋にこもりがちになってしまいますが、身体のためには、思いっきり汗をかくことも必要です。一日に一回ぐらいは外に出て、汗を流してみませんか?

今回は「心雑音」についてお話します。

心臓に異常は、1万人に7?8人

産院から退院するときや、乳児健診で、「心雑音が聞こえます」と言われた経験のある方も少なくないのでは?心臓は、一種の「ポンプ」ですから、もともと水道のポンプで言えば「モーターの駆動音」に相当する「音」を発しています。ためしに赤ちゃんの胸に耳を当ててみてください。

「トクトクトク」と規則正しいリズミカルな音が聞こえましたね。それが心臓の「駆動音」に当たる「心音」です。心臓には左と右、2つの心房と2つの心室があり、さらに心房・心室に出入りする血管の接続部に4つの弁があって、全身を巡ってきた二酸化炭素を多く含む静脈血と、肺で二酸化炭素と酸素を交換して酸素をたくさん含んだ動脈血とが混ざり合わないような構造になっています。「心音」は簡単に言えば、血液を送りだすために心臓が収縮したり、拡張したりを繰り返している時に発せられる弁の開閉音や、血液が流れる音などが混ざり合って発せられる音です。

ところで、生まれながら心臓に何らかの異常が認められる赤ちゃんは、1万人に7?8人程度生まれてくると言われています。心臓は「いのち」の象徴と考えられる様に、生命維持そのものに直接かかわる重要な器官なので、その異常は時に深刻な問題となります。

先天性心疾患の症状は様々です

生れながら心臓(正確には、心臓だけでなくその周辺の血管系の構造まで含めて考えるのですが)に異常の場合を合わせて「先天性心疾患」と呼んでいます。

主な先天性心疾患には、(1)心室を左右に分けている「心室中隔」という壁に欠損(「穴」が開いていると言う意味。穴の大きさや場所によって、病気の重症度や予後が変わってきます)している「心室中隔欠損症」(最も多い先天性心疾患で、約25%を占めます)、(2)心房を左右に分けている「心房中隔」に欠損のある「心房中隔欠損症」(約10%)、(3)赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいたときに、呼吸に使っていない(赤ちゃんは、へその緒を通じてお母さんから酸素や栄養を受け取っています)肺への血流をバイパスするためにある「動脈管」という血管が、出生後も閉じない(通常は出生後数時間から遅くとも数日以内に自然に閉鎖します)「動脈管開存症」(約10%。だだし早産で生まれた出生体重児では最も多い異常です)、(4)肺へ向かう血管の入り口の部分にある弁の周辺が狭くなっている「肺動脈弁狭窄症」(約10%)、(5)大動脈や心室中隔などにいくつかの異常が合併する「ファロー四徴症」(約10%)などがあります。

先天性心疾患は、出生直後からチアノーゼ(赤ちゃんの全身が「紫色」がかって見えます)や心不全で発症する最も重篤なタイプから、時間の経過とともに、徐々に症状が明らかになってくるものなど、症状は実に多彩で、治療を考えるにしても、慎重に診断する必要があります。

自然に消えてしまう心雑音も

一方、心雑音は出生後まもない赤ちゃんでは比較的よく認められるのですが、これが出生直後から聞こえることが必ずしも「悪い」徴候ではありませんし、かなり大きな心雑音が聞こえていても、経過観察を続けているうちに、自然に消えてしまうこともあります。最近では、超音波を使って簡単に心臓の動きや血液の流れを観察することができるようになりましたので、検査に際して赤ちゃんの負担をそれほど考えずに繰り返して様子を観察することができるようになりました。

先天性心疾患は、心臓そのものの形や構造に異常がある場合がほとんどで、妊娠1?2カ月の頃に心臓ができ上がる過程ですでに何らかの異常が生じた場合がほとんどであると考えられます。しかし例えば、妊娠の初期にお母さんが風疹にかかったなどと原因が推定できる場合はむしろ少なく、ほとんどの場合には原因不明です。

さて、心雑音が聞こえるのは、心臓の構造に異常がある場合だけではありません。心臓を流れる血流のスピードは結構早いので、その流れが心臓や血管の壁に当たる音や、共鳴する音が「雑音」として聞かれる場合があります。このような雑音は「機能性心雑音」と呼ばれ、病的なものではありません。出生後しばらくたってから、突然、乳児健診などで「心雑音が聞こえますね……」と言われた場合、実は雑音の正体がこの「機能性雑音」であることが結構あります。

しかし、「音」だけ(「聴診器だけ」)で、その雑音が「機能性」なのか、何らかの異常によるものなのかを判断することは困難です。その様な指摘を受けた場合には、循環器小児科の専門医がいる施設で超音波検査を受けて確認する必要があるでしょう。

さて、今回は「心雑音」についてお話しました。「心臓に雑音!」なんて聞いただけでびっくり仰天、大変心配なごとですが、心疾患は治療法が大きく進歩している領域の一つです。主治医の先生と十分相談の上、まずは正確な診断をすることが治療への第一歩と言えるでしょう。

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(2000.08)

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