なんだか急に暑くなってきましたが、皆さん、お元気 ですか? これから梅雨に引き続いて暑い夏と過ごしに くい日々が続きますが、家の中に閉じこもるのではなく、 積極的に外に出て、気分をかえてみましょう。
さて、「あざ」の話も今回で3回目です。最初に「蒙 古斑」に代表される青い母斑について、次に「正中部母 斑」や「イチゴ状血管腫」など赤い母斑についてお話しし ました。今回は残りの母斑、そう、黒や茶褐色、白い母 斑についてお話ししましょう。
ほくろには悪性のものも
青あざ、赤あざ同様、黒いあざにもさまざまな種類が あり、中には早いうちに治療の必要なものも含まれます。 最もポピュラーな黒いあざは「単純黒子」、いわゆる「 ほくろ」です。ほくろは、からだのどの部位にもみられ、 皮膚の表面から盛り上がらず平らで、形は卵形から円形、 色は淡い褐色から暗褐色までの、直径5ミリ程度までの 小さな色素斑です。通常は、子どもの時期にできること が多いのですが、青年期以降にも増えることがあります。 一般的には取ってしまう必要はありませんが、中には悪 性黒色腫のように、悪性度の極めて高いものが含まれた りしますので、急に大きくなったり、数が増える、盛り 上がってくるなどの変化が見られるときには注意が必要 です。
赤ちゃんの背中やお腹に、硬い毛の生えた全体が凸凹 した黒っぽい母斑が認められることがあります。これは 「獣皮様母斑」と言われるもので、母斑細胞が一部で著 しく増殖しているために、他の皮膚面から盛り上がって、 硬く触れるのです。この母斑は、高い確率で悪性化する ことや、皮膚だけでなく、腹膜や脳の軟膜にも色素細胞 の増殖を起こすことがあるため、慎重な経過観察と治療 が必要となります。
コーヒーの残りかすのような色素沈着
赤ちゃんの時期から「うすい茶褐色のあざ」として問 題になるのは、正確にはこれまでお話ししてきた「母斑」 とは違って「色素沈着」と言われるもので、「カフェ・ オ・レ斑」と呼ばれているものが大部分です。手や足、 腹部に見つけられる「コーヒーの残りかす」のような色 をした大小さまざまな大きさの褐色班で、一つもしくは せいぜい数個が散在して見られるのが普通です。しかし、まれではありますが、神経線維腫症と言う病気では、6 個以上のカフェ・オ・レ斑が、多くの場合出生直後から見られることが知られています。この病気は「エレファ ントマン」と言う映画の主人公のお話で知られるように、 皮膚腫瘍が多発する疾患です。他にも、褐色の色素沈着 と関連する疾患が知られていますが、いずれも稀な病気 ばかりですので、一般的には心配の必要はありません。
白斑は年齢とともに正常になることもある
「色素沈着」が出てくれば、その反対は「色素脱失」です。子どもに見られる白斑(いわゆる「白いあざ」)、 色素脱失症の大半は生まれながら持っているもので、一部遺伝性の病気や全身性の病気の一症状として認められ ることもあります。「色素脱失」の原因はさまざまですが、からだ全体の色素脱失がおこる病気としては、大半 が遺伝性の「全身性白皮症」がありますが、これまた極めて稀な病気です。
からだのどこか一部に色素の脱失があって、白くあざ のように見えるのは、「脱色素性母斑」とか「白斑性母 斑」と言われるもので、多くは生まれた直後から見つけ ることができます。色素脱失のために、白く斑状にみえ ますが、多くの場合は、正常の皮膚に比べてメラニン色 素の含有量が少ないために、白く見えるのであって、完 全に皮膚の色が脱けてしまっているわけではありません。一度生じた白斑は、大きさ、形ともに変化することはな いと言われていますが、中には年齢とともにだんだんと 色が戻ってきて、正常の皮膚色になるものもあるようで す。
さて、3回に渡って「あざ」のお話をしました。あざ は、たとえ小さなものであっても、生まれた直後から目 に付くもので、特にお母さんにとっては大変気になる存 在のようです。しかし、これまで説明したように、病的 な意味をもつ「あざ」は一部のもので、年月の経過に伴って自然に消えてしまうものも決して少なくありません。 目立つ場所にあるもの(例えば、顔面の血管腫など)では、ご家族から出生後の早い時期に治療を希望される場 合も少なくありませんが、治療の効果やそのために必要 となる麻酔のリスク(今では、赤ちゃんの全身麻酔もそ れほどリスクが高いわけではありませんが…)などを十 分に考えたうえで、判断することが必要でしょう。小児 科・新生児科の医師だけでなく、皮膚科専門医などの意 見も参考にして下さい。
と言うことで、今回で「あざ」のシリーズはおしまい です。次は話題をがらっと変えて、「心雑音」のお話を したいと思います。いつもの通り、この連載に関するご 質問、ご要望を編集部まで遠慮なくお寄せ下さい!
(2000.06)