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堀口貞夫:幸せなお産
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妊娠・出産のリスクと産科医療のこれから

堀口貞夫:幸せなお産

「しあわせなお産」と題してこれまで30回にわたり、書き継いできました。妊娠出産に関わるさまざま場面で、身体に現われる不調感、そこから生まれる不安や緊張…。すべては生殖という現象に伴って起こるさまざまな変化から発生するものであるという立場で、私の今までの診療で得た経験から「どう考えたらよいか、どのように対処したらよいか」について、胸にストンと落ちる心得が『しあわせなお産』に臨むお手伝いになるのではと思ってお話をしてきました。

産科が病院からなくなる!

しかし最近の、産科・小児科の医療システムやそれを取り巻く環境が、何か落着かない状態になっています。具体的には、お産を取り扱わない病院・診療所が増えてきているということです。特に重要な役割を果たしていた小規模な公立病院が産科診療を続けられなくなっているのです。理由は24時間体制で分娩を引き受ける医療者の体制をくむことができなくなってきたからです。

年間200件のお産を診るには、医者は365日オンコールのつもりでいないといけません。例えば、緊急の帝王切開を考えると、最低でも産婦人科医が2人常勤していないといけませんし、助産師も最低4人いないと保健師助産師看護師法に抵触する(医師助産師以外は内診ができないとされたため)ことになります。公立病院の産婦人科としては、当然のこととして婦人科診療という大きな役割りを担わなければなりません。その中で、お産ではいつ起こるかわからない緊急事態への対処を強いられるのです。

お産の「リスク」

ではお産ってそんなに危険なものなのでしょうか? 昔は「棺桶に片足入れてお産をする」といわれたこともありました。 お産と関連して母親が亡くなることを「妊産婦死亡」といい、<表1>はその昭和初期からの変化を示したものです。昭和10年(1935年私が生まれた頃)は405人お産をするたびに1人亡くなっていました。昭和35年(1960年私が医者になった頃)でも851人に1人がお産で亡くなっていたのです。それが平成12年(2000年)には15,873人に1人とかなり妊産婦死亡は少なくなりました。お産をする人にとっての危険は40分の1に減ったということなのです。

これは、自宅でお産をする人が昭和45年(1970年)頃からほどんどなくなったこと、それを手助する医療側の知識と技術が格段に進歩したこと、そして妊婦さんたちの生活環境が良くなったことなどが考えられます。妊産婦死亡の数をいくつかの外国の例と較べたのが<表2>です。調査の年は日本と1~2年の差がありますが、数字はどの国も肩を並べていることがわかります。

産科医療の現場でいま何が起きているのか

ところで日本では1991年と1992年に妊産婦死亡について、大規模な原因調査が行なわれました。その結果「人手と設備の整った施設でお産をすれば、妊産婦死亡の37%を減らすことができる」という産科医療の関係者にとっては衝撃的な報告がされました。日本の産科医療は遅れているというのです。産科医療の関係者は現場の努力により、母親の死亡を、約半分の15,263分娩に一人に減らしました。しかし現在起こっていることは、そのような産科医療関係者個人の努力が限界に達していることを示しているのではないでしょうか。

自分で自分のリスクをチェック

お産をする人にとっての救いは、お産の手助けをしている個人、あるいはグループ診療でやっている診療所や助産院があることです。助産院では助産師さんが妊婦検診から出産、育児までの面倒を見ます。産科医ではないので正常の経過の人だけですが、助産院では助産師さんが妊婦検診から出産、育児まで面倒を見ます。一方診療所では多少の医療処置が必要になっても対応できます。定期検診では産婦人科医や助産師さんがプロの目で順調かどうかを診察します。

妊娠している人自身が、自分が何らかのリスクを持っている可能性があるかどうかを知る方法として、平成17年4月に発表された「妊娠リスク自己評価法」があります。これを参考にして医師、助産師と話し合っていくのはひとつの方法だと思います。

(2006.05)

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