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堀口貞夫:幸せなお産
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陣痛が始まってからの帝王切開

堀口貞夫:幸せなお産

前回に続き、私たち医師が、どのような場合に帝王切開を決断するか、今回は陣痛が始まってからの判断で帝王切開となるケースについてお話しします。

分娩が進行しない

回旋異常、横位、児頭骨盤不均衡などのために、分娩進行が停止したり、長引いたりして、分娩終了までの見通しが立てられない状態では、娩出時の状態が保証されず、帝王切開のほうが、安全性が高いと判断されることになります。

胎児が苦しくなってきた

胎児の心拍数や陣痛時の異常、羊水混濁の進行、常位胎盤早期剥離、子宮破裂などの異常が起こっている時は、急いで分娩を終了させる必要があり、経腟分娩と帝王切開とどちらが短時間で生ませられるかで、分娩方法が選択されます。

前・早期破水後24時間以上

破水後、時間が経つほど子宮内感染の可能性は高くなります。この場合、分娩所用時間の予測が重要です。経腟分娩で1時間以上と予測されるときは、帝王切開を選択することになります。

骨盤が小さい、胎児が大きい、骨盤の形に問題があるなど

この場合は、胎児の下がり具合と、分娩を見守る産科医の技量に左右されます。医師に安全に分娩させる自信がなければ帝王切開を選択することになるでしょう。しかしそれが過信であれば大変です。そうでなくても産科医療が難しいのは、不測の事態が起こるからで、これを恐れると帝王切開は増えることになります。国や施設、さらには人によって帝王切開率(5~60%)に幅があるのはこの為です。

帝王切開の危険

また、帝王切開には危険も潜在します。

1)血圧の低下

腰椎麻酔では本質的に血圧が下がりやすく、またおなかに大きな腫瘤(妊娠子宮)があるときも同様で、これが仰臥低血圧症候群といわれるものです。

2)腰椎麻酔後の頭痛

1~10%の頻度でみられる副作用です。一時的ですが、起き上がった時に痛くなるので、早期に授乳を始めたい産後には、つらい症状です。

3)出血が多くなりやすい

切開した傷があるのですから、そこからの分だけ当然出血は多くなります。

4)血栓性静脈炎

お産には出血がつきもの。胎盤が剥がれた後の出血は避けられないものですが、妊娠末期には、血液が固まりやすくなってこれをできるだけおさえようと働きます。手術後身体を動かすことが少ないと、下肢のうっ血で、静脈血栓ができやすくなります。

5)新生児の呼吸の確立が遅れる

胎児はおなかの中で羊水を吸い込み、呼吸運動の練習をしています。また気管から肺胞までの気道は肺の分泌物によって満たされており、ちょうど水を含んだスポンジ状態です。経腟分娩では胸が産道を通過する時に強く圧迫されて、気道の中の液体は絞り出されます。身体が娩出されると圧迫が解除され、入れ替わって空気が肺に吸入されるのです。帝王切開ではこの過程がありませんから、気道は液体に満たされたままです。肺循環がよければ、気道(特に肺胞)中の液体は血液とリンパ液に吸収されますが、一過性多呼吸という状態になりやすいのです。

6)帝王切開後の分娩

子宮の切開創の跡の破裂を起こすことが稀にあり、再び帝王切開になる確率は40%以上となります。 帝王切開がどのような場合に行われるか、この問題は実は産科学でいちばん難しい決断の場所です。身体にメスを入れることをなんとも思わないのなら、安全だけを考えれば良いのです。しかし、安全第一は経済効率第一と同じように「危ういものがある」と私には思えるのです。

(2005.11)

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