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堀口貞夫:幸せなお産
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妊娠とお酒 胎児性アルコール症候群(FAS)

堀口貞夫:幸せなお産

「アルコール依存(症)の母親から生まれた赤ちゃんに胎児性アルコール症候群といわれる異常が見られることがある」ということが明らかになったのは1979年前後。この胎児アルコール症候群(FAS)は特徴のある顔つき(頭や眼瞼裂が小さい、上唇が薄いなど)、出生前後の成長・発育の遅れ、脳障害(大脳発育不全、小脳異常、脳梁形成不全~無形成)とそれによる行動認知の特徴(過剰行動、こだわり、感覚過敏など)の3つが見られます。かつては同じ家系のなかに集って発生する傾向があったために、遺伝性の異常と思われていましたが、飲酒癖との関係性が分かり、発生を予防できることが判明しました。

アルコール依存症とは?

アルコール依存は、飲酒したいという強迫的衝動や欲求のために、適切な飲酒量や場所を維持できない状態をいいます。モルヒネ、ニコチン(たばこ)、大麻、有機溶剤などによって起こるのと同じ薬物依存の一種で、アルコールに対する精神的依存(飲んだときの精神的な状態を望み、絶えずアルコールを探し求める)と身体的依存(飲まないときの不眠、不安、などを避けたくて飲む)の2つがあります。その他にも、薬物そのものによる身体障害(胃炎、肝炎、神経障害など)や、ついには社会生活の破たんがもたらされることもあります。特に女性の場合は飲酒の習慣が始まってから依存になるまでの期間が短いといわれています。

アルコール依存になる「危険レベルの飲酒」がどれくらいかは、個人差が大きく、まだ明らかではありません。「頻繁な飲酒」とは週にワイン7杯以上、「度を越した飲酒」とは一度にワイン5杯(3~5杯)以上飲むことが一応の目安となります。「どれくらいまでなら飲んでも安全か」についても、正確なデータはありません。それは、アルコール関連神経発達障害(ARND)やアルコール関連出産障害(ARBD)という診断名の、特徴的な顔貌をもたない精神発達の遅れ、注意集中を保てない、刺激に過敏に反応するなどの行動障害、平衡感覚の障害もあるからです。しかし、このような異常は、他の原因による軽度発達障害といわれる「広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群)」「注意欠陥多動性障(ADHD)」「学習障害(LD)」「軽度知的障害IQ50~70」などで似た症状を示し、そのなかに妊娠中にアルコール摂取していたものが含まれています。その軽度発達障害の母親がアルコール常用者であったのかアルコール関連神経発達障害やアルコール関連出産障害であるのかを区別する有効な方法をまだもっていないからです。

この他にも、胎児期アルコール曝露(PEA)、胎児性アルコール作用(FAE)までを包括した「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」という概念の基で、アルコール曝露に伴う障害の発生を予防するために、“妊娠したら禁酒を”“妊娠しようと思ったら禁酒を”という運動が動き出し、ビール酒造組合では、容器に妊娠授乳中の飲酒の危険について表示することを決めました。洋酒、ワイナリー、日本酒などの酒造業界もこれに追従しています。

危険を知らなかった方へ

アメリカの調査によれば、胎児アルコール症候群の発生頻度は出生1999に対して1~2、アルコール関連神経発達障害まで含めると出生1999に対し4~8になります。一方、妊娠可能年令の女性のなかで、「危険レベル」のアルコールを飲んでいる人は12%ですから、出生1999あたり「危険レベル」のアルコールを摂取している者は129人。その母親から生まれるアルコール関連神経発達障害は4~8(6.7%)ということになります。したがって、妊婦が知らずにアルコールを飲んでしまった場合に生まれてくる子どもにも影響が出る心配は、多く見積もっても6.7%です。他の多くのリスク因子(タバコ、クスリ、レントゲン、電磁波、食品添加物など)と同じように考えればいいですが、避けられるものは避けるということが大事でしょう。

(ワイン一杯はアルコール14gで、それはビール359ml、日本酒189ml、ウイスキー35mlに相当)

(2004.08)

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