お産の真実─その4

堀口貞夫:幸せなお産

「帝王切開」と自然の産道を通ってのお産について

前回は、陣痛を経験する分娩について、ふれました。分娩が順調にすすむためには陣痛が十分な強さにならなければなりません。前回の繰り返しになりますが、これが胎児に影響を与えるかもしれないのは、皮肉なことです。今回はその、胎児に影響を与える陣痛を経験しないおさん「帝王切開」についても考えてみたいと思います。

帝王切開ってなんだろう

陣痛を経験しなくても良い帝王切開なら『絶対に安心』なのでしょうか?

麻酔法、手術法や手術中手術後の全身管理の進歩した現在、日本では40年前とは比較にならないくらい安全な手術になりました。それでも麻酔の副作用や赤ちゃんへの影響などお腹を切ることのマイナスが「まったくない」という訳にはいきません。

麻酔の母体への副作用は?

麻酔のために手術中に血圧が下がったり、手術後数日の間頭痛に悩まされることがあります。全身麻酔では嘔吐したものを肺に吸い込んで肺炎を起こすこともあります。

手術の母体への影響

切開するために自然の産道を通ってのお産に比べ多少出血が多くなります。お産の出血をできるだけ少なくするという自然の摂理で血液が固まりやすくなっているのですが、手術後ベッドで安静にしているために、血管の中で血液が固まってしまい、血栓生静脈炎を起こしたり、肺動脈塞栓症(肺梗塞)を起こすこともあります。

また帝王切開の後は子宮に手術の傷があるために、次の分娩の時その傷が破れないように特別な注意が必要で、注意をしていても(注意をしているからこそかもしれません)、半分くらいは帝王切開にせざるを得ないのです。

まれに肺梗塞が起こると…

めったに起こることではないのですが、肺梗塞になってしまうと、助産院や診療所や中小病院では手に余リ、かといって搬送も難しいということもあります。「6割の妊娠出産は、妊娠初期から分娩終了まで何も心配な事は起こらないのに」です。

帝王切開の赤ちゃんへの影響

子宮の中で、胎児は呼吸の練習をしています。それで口腔・気管から肺は吸い込んだ羊水と分泌液で満たされています。胎児が自然の産道を通る時、胸が圧迫されるので(ちょうど水を含ませたスポンジをぎゅっと絞るように)肺の中の羊水が絞り出され、入れ替わって空気が吸い込まれるのですが、帝王切開ではこれがありません。肺は水浸しの状態です。新生児一過性多呼吸といわれる状態です。

自然分娩を願うわけ

助産師と産科医が夜も昼も「もう少しですよ」「少しずつ赤ちゃんが下がってきていますよ」「赤ちゃんも頑張っているからね」と繰り返しながら、何か異常のサインはないかと五感を研ぎすましてお産が進むのを待つことを選ぶのは、まさにこのためなのです。

予測される異常の危険度が帝王切開の危険度を越えると判断した時、帝王切開と云う分娩法が選択されるのです。

赤ちゃんが元気な状態である時、分娩の進行も順調であるかどうかは、子宮口の開き具合と下降部(大部分は頭)の回旋と下がり具合で判断します。ですから良い陣痛がきていれば、2~3~5時間ごとに内診をしなければなりません。

自然分娩のために助産師や医師がしていること

自然の産道を通っての分娩をすすめるために、もう一つ大事なのは、産婦が身体をかたくすることによって産道の壁が緊張して胎児が下がってくるのを妨げたりしないように産婦さんにリラックスするよう助言したり手助けをすることです。産婦さんの不安やお産への怖れを取りのぞくことで陣痛が弱くなるのを防ぐことができるとも云われます。

このように、お産では、経験の多い医師であればあるほど顔色に出さずに慎重に見守り、そして緊張しているのです。

これにて、4回にわたりお産の真実をみなさんに伝えようとした試みを一旦閉じたいと思います。

(2003.02)

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