お産の真実─その3

堀口貞夫:幸せなお産

陣痛時のケア・モニター装着について考える

「いよいよお産のときの医療的なケア」についてお話ししましょう。

陣痛が胎児に与える影響のこと

陣痛(規則的なそして強い収縮)が始まると何が起こるのでしょうか?陣痛が始まる前まで、妊婦のおなかの中の赤ちゃんは、比較的安定した環境の中で暮らしています。環境の温度は37℃、湿度はというと、羊水の中ですから100%。子宮と腹壁に包まれているので明るさの変化も大きいものではありません。酸素の取り込みや栄養の摂取も胎盤を通してですから子宮の中の赤ち ゃんは、何もせずにただうとうとと、まどろんでいればいいのです。

強い子宮収縮が起こると、胎盤の中を流れている母親の血液の量が減ります。この血液が胎盤に運び込む(言い換えれば胎児に供給される)酸素の量が減ることになります。

この「胎盤が胎児へ酸素を供給する能力」にはかなり余裕があると考えられていますので大部分のお産では胎児への酸素供給の減少が、胎児を苦しくすることにはなりません。

ただ胎盤の血流量の減少の影響が現れやすくなる次のような場合があります。例えば陣痛が強すぎるときや、普通の陣痛でも分娩時間が長くかかるとき、胎盤を流れる血液の量がもともと少ないとき(例えば妊娠中毒症や胎盤の梗塞など)、胎盤の機能が低下してきたとき(1~2週間以上の予定日超過)などです。こういうときには、胎児血液の酸素濃度の低下や、そのために起こる血液の酸性変化のために胎児心拍数に影響が出るのです。

陣痛は、臍帯にも圧迫を加える

もうひとつ、陣痛が胎児に影響を与えるのは臍帯への圧迫です。超音波検査の映像を見た人はわかると思いますが、胎児のいる子宮の中はそんなに広くはありません。

ですから子宮が強く収縮して子宮壁が胎児を圧迫するとき、臍帯がここにあったり、首や腕に巻き付いていたりすると臍帯が圧迫される事があります。臍帯には心臓から押し出される血液 のおよそ半分が流れています。この血流の先が閉ざされるのですから反射的に心臓の動きに影響して心拍数は減少します。

このような変化は胎児の心拍数曲線を連続的に記録することで見つけることができます。分娩監視装置はこの目的のために作られたものです。この装置は、モニターとか、NST検査など名前で、呼ばれることもあります。

モニター装着の現実

さてそこで問題が出てきます。「このような胎児の脈拍数の変化がいつ起こっても見つけられるように」と考えると、ケアする側は、陣痛が始まったらモニタをお産が終わるまで(3~15時間の間)ずっとつけておかなければなりませ ん。

子宮の収縮と胎児の心音をとらえるための二個のプローブを二本の帯で産婦さんのお腹に固定します。また心拍曲線と陣痛曲線をきれいに、雑音が入らないように記録するには、できるだけ産婦さんが体を動かさないようにしなければならないのです。そのうえ産婦さんはコードで分娩監視装置(※)とつながれた状態になります。

産婦のアメニティはどうなるの?

本当に連続して、「赤ちゃんがうまれるまでモニターをつけておかなければならないのか」について1979年代の終わりから1989年代にかけて、多くの研究がされまし た。1985年のダブリン報告というのが有名ですが、「モニターを長時間連続してつけなくても大丈夫。ただし分娩第1期の活動期には15分ごとに、分娩第2期には5分ごとに耳で聴診することが必要」というものです。

1988年アメリカ産婦人科医会は「リスクのないものは第1期30分・第2期15分でもよい」としました。

これは産婦さん1人から2人に助産師さんが1人、つきっきりになる必要がでてくるということです。

今の日本の分娩施設ではそれだけの助産師さんの要員配置はむずかしいため、陣痛が始まって入院したときに、モニターを40分間位つけ、異常がないことを確かめたらはずし、分娩第2期くらいから分娩終了までは連続してつけるという方法をとっているところもあります。

モニターを使用した効果はどうなのか?

さて、このモニターを使用した効果はどうでしょうか?昔、1時間ごとくらいに助産婦さんが回ってきて胎児の心音を聴診していた1969年代には 新生児仮死は10%くらいありました。9割の人にモニターをつけるようになった1980年代には新生児仮死は4%強と半分になっているのです。これはモニター装着のメリット部分といえるでしょう。

さて、分娩が順調に進むためには陣痛が十分な強さにならなければなりません。これが胎児に影響を与えるかもしれないのは皮肉なことです。次回はその陣痛を経験しないお産「帝王切開」のことを含めて考えます。

(※)分娩監視装置について

分娩監視装置といっても胎児心拍曲線を陣痛曲線と一緒の記録しているだけで、大人でいえば脈拍数を見て、元気かどうかを判断しているの同じです。胎児心拍曲線に異常がなければ胎児は安心できる状態といえます。しかし、胎児心拍曲線に胎児仮死といわれるような変化が出ていても、新生児仮死になるのは5人に1人くらいなのです。胎児心拍曲線の異常は新生児を仮死状態にするような「酸素不足・血液の酸性化」ではない場合にも起こるということなのです。安全性とアメニテイのどちらを選択するかということになります。

(2002.11)

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