妊娠中の検査・妊娠中のケアと医学的管理
前号で、助産師(婦)と産科医師の役割は第1に「慎重な医学的な管理や緊急処置」を必要としないように妊娠中のケアをすること。第2に「慎重な医学的な管理や緊急処置」を必要とした時に、適確に対応することだと書きました。
今号ではどのような考えに基づいて検診・検査が行われているかをお話しします。
妊娠初期の検診
妊娠初期には次の検査を行います。
A)流産(10~15%)、子宮外妊娠(9・5%)、胞状奇胎(9・2%)などの異常妊娠や多胎(1%)はないか
・・・・・問診、内診、経腟超音波検査
このA)のような異常がないことがわかった後、妊娠10週くらいまでに診断される異常はおよそ9%です。
B)子宮筋腫・卵巣腫瘍・子宮の奇形等の婦人科的異常はないか
・・・・・内診、経腟超音波検査
C)内科的合併症はないか
・・・・・問診
D)以前の妊娠出産の異常はなかったか
・・・・・問診
E)血液型・貧血・感染症(B型肝炎・梅毒・風疹など)
・・・・・妊娠初期血液検査
F)妊娠週数・分娩予定日の決定
・・・・・問診、経腟超音波検査
妊娠中期~後期の検診
妊娠初期の検診で、流産(10~15%)、子宮外妊娠(9・5%)、胞状奇胎(9・2%)などの異常妊娠がないと判断されるおよそ妊娠8~10週以後分娩が始まるまでの外来診察では、医師は妊婦の何に注目して定期診察をしているのでしょうか。
A)定期妊婦検診で診ること
母子手帳に記入される項目が中心です。
1)妊婦に関して
■血圧・尿タンパク・むくみ・体重増加
・・・・・妊娠中毒症
■尿糖
・・・・・糖尿病
■腹囲・体重
・・・・・肥満
2)胎児に関して
■子宮底長・腹囲
・・・・・胎児の発育
■胎児の頭・せなか・臀部あるいは足の位置
・・・・・胎児の位置
3)妊婦の訴えに関して
■妊娠に伴って起こる身体変化による不快症状(悪心嘔吐、動悸、めまい、立ちくらみ腹痛・腰痛・頭痛・出血・胎動が少なくなったなど、処置を必要とするような異常はないか)
・・・・・感冒・膀胱炎・下痢腸炎・便秘・痔
B)ハイリスクの選別を目的とした診察
定期検診項目でわかるものも多いのですが内診、超音波検査、血液検査、膣分泌物検査等を実施することで診断できるものです。異常発生率はおよそ13%になります。そして問題はこれらの異常がそれまでの検診ではまったく存在しなかったのに発生することです。
だからこそ定期検診が必要なのです。
1)妊娠、分娩に影響を与えるような合併症はないか
■高血圧・妊娠性糖尿病・自己免疫疾患
・・・・・問診、尿・血液検査
2)胎児は順調に発育しているか
■胎児発育遅延、多胎児の不均衡発育
・・・・・子宮底の計測、超音波検査
■先天異常を疑わせる異常所見はないか
3)産科的ハイリスクはないか
■胎盤の位置の異常(前置胎盤・低位胎盤)
・・・・・経腟および経腹超音波検査
■胎児の大きさ・胎位
・・・・・経腹超音波検査
・・・・・頚管無力症 ・切迫流早産
・・・・・内診・経腟および経腹超音波検査
■胎盤機能不全(妊娠中毒症・過期妊娠)
・・・・・NST・経腹超音波検査
■感染症(羊膜絨毛膜炎・頚管炎・腟炎・外陰炎)
・・・・・分泌物培養・顕微鏡検査
■胎盤早期剥離
・・・・・外診・NST・経腹超音波・出血
これらのことが、医師がお産が始まるまでの定期検診項目以外に注目していることです。
医師がこのような異常を見つけた時に妊婦からよく聴かれる質問は「前回までは、異常ありません、順調ですと言われていたのになぜですか?」ということです。そう聞きたくなる気持ちもわからなくはないのですが、異常は突然起こるものなのです。それをできるだけ早く見つけるために、4週間おき、2週間おきあるいは1週間おきに定期検診をやっているのです。「ある時の検診で異常がなければ、分娩を終わるまで何も異常は起こらない」訳ではないのです。病気になる人は、発病する前は異常はないのと同じです。
前回異常がなかったからといって怠らず、定期検診はきちんと受けてください。そして「赤ちゃんも元気だし、順調です。次は2週間後に診察に来てください」と言われたとしても、途中でお腹が痛い、出血した、胎動が少なくなったようだ、むくみが急に強くなった、などのために、変だな、どうしたのかな、心配などと感じたら、その時は遠慮なく診察を受けてください。自分のからだの中の声をよく聴きましょう。
いよいよお産の時のケアについては次回に。
(2002.08)