お産の真実

堀口貞夫:幸せなお産

今、お産は安全か?

平成11年(1999年)にはおよそ122万件のお産がありました。この1年間に妊娠出産に関係して亡くなった女性の数は72人で、妊産婦の死亡は10万人に対し5・92人の割合です。一方、生殖年齢(15~44歳)の女性およそ2597万人の死亡の割合は10万人に対し38・9人でした。これで見る限り生殖年齢の女性にとって妊娠が死亡の危険を増加させるとは限らないように見えます。

では、胎児に対する危険はどうでしょうか? 妊娠22週から生後1週間の間の赤ちゃんの死亡の割合(周産期死亡率)は1999人中5・84人で、出生後1年以内の死亡の割合(乳児死亡率)は1999人中3.4人ですから、お産(分娩)が赤ちゃんの生命に多少の影響を与えることを想像させます。

しかし、20年前(1979年)には妊産婦死亡の割合は10万人中21・9人、周産期死亡の割合は1999人中21・6人もあったのです。この20年間に出産に関わる子どもの死亡も母親の死亡も、4分の1に減ったわけで、安全性は著しく改善されたと言えます。施設分娩率が99・8%あり、妊娠中、分娩時、そして産後の母と子に対する医学的管理が進歩したから、と言うことができるでしょう。

愛育病院での例と医学的管理の重要性

1994年の1年間に愛育病院では1344件のお産がありました。初めての診察から数回目の診察までの間に、要注意と思われたものは123例(9.1%)でした。その後、陣痛が始まるまでの外来での検診時に、要注意の所見が現われたものは179例(12・9%)で、合計293例(22%)になります。この要注意とされたものでも注意深い検診と分娩管理によって、陣痛開始から分娩終了までの間に何の問題を起こすこともなく終わったものが123例(42%)ありました。

一方、妊娠中要注意所見の無かった1951例の中にも、陣痛開始後分娩終了までの間に異常を起こしたものが186例もあります。回旋異常・巨大児・陣痛微弱などのための分娩遷延、子宮内感染、胎児心拍曲線の異常、新生児仮死、分娩中・分娩後の大出血、子癇などです。

この年の愛育病院の周産期死亡の割合は、平均より1・54人低い4.5人(1999人中)です。このように、危険性が高いお産が多い場合でも、きちんとした医学的管理をすれば、死亡割合は減ることになり、妊娠分娩期を通しての医学的管理の重要性がわかります。

妊娠・出産が赤ちゃんに与える危険性

赤ちゃんは胎児の時代には胎盤を通じて母親から酸素や栄養をもらい、炭酸ガスや老廃物を母親の血液へ排出しています。胎盤の働きや母親の血液が十分に胎盤を流れているかがこれに影響を与えます。妊娠中毒症・分娩予定日を過ぎること・陣痛が強すぎること・不安や緊張などが胎盤への血流に関係するのです。

生まれると赤ちゃんはすぐに呼吸をして肺を広げ、自分の呼吸で酸素を取り込まなければなりません。未熟で呼吸筋が弱かったり、肺が広がりにくかったり、羊水に胎便が混じって濁っていたりすると順調に行かないこともあります。

妊娠・出産が母親に与える危険性

母親はどうでしょうか。妊娠中の母親のカラダに起こる変化は子宮の中で胎児が大きくなる(0.2ミリから身長599ミリまで)だけではありません。免疫状態の変化・血液量の増加・心臓の仕事量の増加・下半身の鬱血・呼吸の促進・血液凝固性の亢進・水分の貯留代謝の変化など、たくさんの変化が起こります。また陣痛が始まってからは、血圧や呼吸の変化したり、食事が摂れなかったり、嘔吐するための脱水を起こしたり、不安や緊張などが見られることがあります。

胎盤には母親の血液が毎分、499ミリリットルくらい流れ込んでいます。赤ちゃんと胎盤が娩出された後、子宮がしっかりと収縮してくれないと今まで胎盤の中を流れていた血液は子宮の外へ流れ出してしまいます。

「赤ちゃんの肺呼吸の確立」と「母親の胎盤が剥がれた後、遅れずに出血をとめる」の2つの「切り替え」は綱渡りとも例えられる大事なことなのですが、8割のお産では自然に上手く乗り越えてしまいますし、1割5分は簡単な処置で終わるのです。

大雑把に言って、6割から8割くらいは無事にお産を終わります。残りの2割から4割くらいが慎重な医学的な管理や緊急処置を必要とするのです。

妊娠・出産を安全に終わらせるためには、第一に「慎重な医学的な管理や緊急処置」を必要としないように妊娠中のケアをすること、第二に「慎重な医学的な管理や緊急処置」を必要とした時に適確に対応すること、が助産師(婦)と産科医師の役割です。

次号ではどのような考えに基づいて妊娠中のケアと医学的管理や緊急処置が行なわれているのかを紹介しましょう。

(2002.05)

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