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堀口貞夫:幸せなお産
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ブラジル:人間的なお産

堀口貞夫:幸せなお産

今号はいつもとちょっと内容を変えて、昨年11月2日~4日、ブラジルで開かれた「出産・出生のヒューマニゼーションに関する国際会議」へ参加したことについて、お話したいと思います。

ブラジルは帝王切開60%

 「出産・出生のヒューマニゼーションに関する国際会議」(International Conference on the Humanization of Childbirth)。これが私の興味を引いた国際会議の名前です。ブラジルで開かれることも、私を引き付けた第1の理由でした。なぜならば、私が知っている少しばかりの外国の出産事情の中で、ブラジルは「帝王切開率60%の国」だからです。 そんな国で語られる「出産・出生のヒューマニゼーション(人間性)」とは何だろうか?と興味を持ったのです。 この会議は、1996年から5年間にわたるJICA(ジャイカ:国際協力事業団)―ブラジル国・家族計画・母子保健プロジェクト「PROJETO LUZ(光のプロジェクト)」の集大成の場でもありました。

施設分娩の推進の結果…

ブラジルには助産婦がいません。かつてはお産婆さん(traditional birth attendant=取りあげ婆さん)によって、自宅で、あるいは助産所でお産が行われていました。その後、安全なお産を目指して施設分娩(日本では1955年頃、昭和30年代から奨められた)が推進されました。その結果、妊産婦たちが2~3時間かけてたどり着いた病院では、1日に30~40人の赤ちゃんが生まれるということになりました。日本では考えられないほど多い数です。

このような環境の中、ブラジルの出産状況は、一方では流れ作業によるほとんど放置された「自然分娩」、他方では放置されはしないけれどもすべて管理された「帝王切開」となったようです。

そんな状態の中でのブラジル(1994年)の出生数は382万人、出生10万人当たりの妊産婦死亡率は169、周産期死亡率は25・6。この年の日本の出生数は124万人で、妊産婦死亡率は6・1、周産期死亡率は7・5です。

「人間的な出産」とは?

この現実を見て、光のプロジェクトでは助産のトレーニングを受けた看護婦たちが、リクスの低い妊婦であれば自分の住んでいる場所の近くにある「妊婦の家」で、そして遠い病院に行かなければならない場合でも、身近に見守りケアをしてくれる環境を作ろうとしたのです。妊婦たちが自分の妊娠・出産の経験を語り合い、産科看護婦がそれをサポートするという理想的な環境が作られていきました。

会議の中でアメリカの医療人類学者Robbie E.Davis-Floydは「人間的な出産」とは「『1:必要なそして信頼できる情報を得られること、2:産む女性が自ら決断できること』によって、妊娠・出産を産む人のものとすること」であると話していました。それは産む側の自覚をも求めるものであり、かつそれをサポートする助産婦の役割の重要さを明らかにするものでした。

助産婦や産科看護婦の重要性

一方、妊娠・出産はいつ危険が迫って来るかわからないという側面を持っています。したがって産科専門医の立場からすると、low risk(危険が少ない)とhigh risk(危険が多い)をどう見分けて行くかはとても大きな問題です。産科看護婦や助産婦による妊産婦に寄り添ったケアにより、リスク(危険)の発生が少なくなるとしてもです。そのため助産婦や産科看護婦が、妊婦・産婦の状態を評価する能力がとても大切になってきます。それでもなお、妊娠や分娩というダイナミックな現象の過程で起こるからだの生理機能や形態的変化は、「一歩間違えれば何が起こってもおかしくはない」と警報を与えていると産科の専門医として感じます。少なくとも妊娠した人の3人に2人は、始めから終わりまで、なんの問題もなく出産を終えるのですが。

オランダは自宅分娩率30%

オランダの助産婦Mary C. Scheffer-Zwartによるワークショップにも出席しました。オランダは自宅分娩率30%といわれており、この大問題がどう解決されているのかを知りたかったからです。オランダでは、ダイレクト・エントリー(看護婦資格を持たなくても助産婦になれる)という日本とは異なる助産婦教育システムを採用しているとはいえ、4年という教育期間の中に十分な能力を培うに必要なものがあるように思えました。少し突っ込んだ質問をしたら、「オランダへいらっしゃい」と言われてしまいました(笑)。

いずれにせよ、世界の出産事情は国により様々です。ただし「人間的な出産」を目指すことは万国共通だと痛感します。 この国際会議の出席者は日本のほか、アメリカ、カナダ、フランス、オランダ、イギリスや開催国のブラジルはもちろんのこと、ラテン・アメリカのアルゼンチン、チリ、メキシコ、ウルガイなど26カ国から2999名が集まりました。

ここは水の惑星である…

帰りにイグアスの滝をブラジル側とアルゼンチン側から見るのが、往復60時間をかけてブラジルまで出かけた第2の理由でした。アルゼンチン側の滝の正面にある展望台では、風の具合もあるのでしょうが、しぶきでびっしょりとなり、雨の北アルプスを歩いた時のことを思い出しました。アジア内陸やアフリカの乾燥・砂漠化が進んでいるといわれますが、「地球は水の惑星」を実感させてくれる経験でした。

(2000.10)

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