今号は、妊娠中に行う検査の中から、子宮がん検診について、お話します。妊娠中の検査で、突然「子宮がん」と言われ、無事に赤ちゃんを産むことができるの、と不安になる人もいるかと思います。
妊娠中に子宮がん検診をする理由
昔から初交経験が早ければ早いほど、パートナーの数が多いほど、出産回数が多いほど、子宮がん(この場合、子宮頚部がんのこと)になりやすいと言われていました。それは統計的にも明らかだったのです。
昨今、ウイルス研究の進歩によって、ヒトパピローマウイルスの感染が子宮頚部がんの発生にかかわっていることが明らかにされてきました。昔、言われた子宮がんになりやすい条件は、ヒトパピローマウイルスに感染する機会が多いということですから、理にかなっていたわけです。
現在は、妊娠中に細胞診(子宮頚部がんのスクリーニング検査)を実施する所が多くなってきました。我が国の一九八七年以降の、妊婦の細胞診についての報告を見ると、細胞診の結果、精密検査を必要としたものは9・61~2・27%で、非妊婦とほとんど同じです。妊婦のほうが、平均年齢が低いことを考えれば、妊娠初期の細胞診は有用と思われます。
細胞診とは、どう実施するの?
子宮頸部がんは子宮の出口の所にできるので、普通の婦人科診察で見える所です。目で見える所を綿棒の綿や専用ヘラで擦って、採取できた細胞をガラス板に塗って染めた後、専門家が顕微鏡で調べます。見落としがあっては大変、慎重に調べるので、結果が出るまでにおよそ1週間前後かかります。組織を採るわけではないので、痛みを感じることはありません。
検査結果は五段階に分けられます
以下、?~?の五段階に分類されます。
- ?:正常の膣上皮細胞のみのもの。
- ?:細胞に炎症、感染、傷の修復、IUD、萎縮などによる良性の変化をを認めるが、悪性の疑いのないもの。
- ?:悪性の疑いのある異型細胞を認めるが、悪性と断定できる細胞が見られないもの。
- ?:悪性の疑いが極めて濃厚な細胞を認める場合。
- ?:悪性と断定できる細胞を認める場合。
分類結果は、どう判断されるの?
- 1)?と?は悪性の疑いはないが、半年~1年毎に細胞診を行う。
- 2)?は、細胞の異形成の程度により、?a(異形成の程度の弱いもの)、?b(異形成の程度の強いもの)にわけ、コルポスコピーと組織検査をする。
- ?aは、組織検査では軽度~中等度異形成が予想されるが、上皮内がんもあり得る。がんである頻度は、およそ5%。
- ?bは、組織検査では高度異形成~上皮内がんが予想されるが、微小浸潤がんもあり得る。がんである頻度は、50%くらい。
- 3)?は、組織検査では上皮内がんが予想されるが、高度異形成あるいは微小浸潤がんもあり得る。
- 4)?は、組織検査では上皮内がん以上が予想されるが高度異形成もあり得る。
妊娠中に診断された場合の方針は?
妊婦および夫と一緒に十分な説明を受けた上で、担当医と話し合って方針を決定することが大切です。
初産婦の場合
組織検査で上皮内がんまたは、それ以下であれば、注意深い検査を続けることで、経腟分娩も可能です。
上皮内がん、微小浸潤がんの場合には、現在、レーザーまたはメスによる円錐切除をすることができます。ただし、流産や早産を予防するため、子宮頸管縫縮術を行います。
経産婦の場合
同じく、注意深い検査を続け、または円錐切除という判断もし、妊娠を継続させるか、妊娠の継続をあきらめて根治手術をするか、検討します。
まとめ・妊娠中の子宮頸部がん
妊娠中の経過を追った例でも、組織所見の進行は認められないようです。しかし方針の決定のためには、浸潤がんの場合を含めて主治医とよく相談することが大切です。場合によってはセカンド・オピニオン(他の専門医の意見を聴くこと)もよいでしょう。
また妊娠を継続するにせよ、あきらめて中絶するにせよ、子宮頸部がん治療も出産も、子宮頸部がんの診療に習熟している病院で、診療を受けるのがよいと思われます。
子宮頸部がんについての自然経過については、上に述べたようにかなりよく分かっています。すなわち、軽度~高度異形成というがんになる前の状態があること、上皮内がんから微小浸潤がんへの進行もある程度(注意して妊娠を継続できる程度に)時間がかかること、この二点は重要です。
これが妊娠していない時に子宮頸がんに対する細胞診を定期的に行うことが大切な理由なのです。即ち子宮がん検診を定期的に受けることは子宮がんを早く発見するためではなく、全がん状態を発見することになるのです。
(2000.10)