今の日本の産婦人科は世界的にも高い水準にあります。医療の発展に伴って30年ほど前の1万人に12人という妊産婦死亡率が、今は1万人に0.7人という割合に減っています。分娩監視装置が普及して胎児の状態を観察できるようになったし、経膣エコーで妊娠初期の胎児の成長を正確にとらえられるようになって多くのリスクを回避できるようになりました。
妊・産婦さんたちは、今の日本の医学を信頼していいと思います。しかし、妊娠・出産はそれでもリスクと背中合わせです。そのリスクを少しでも避けるように努力しているのですが、それが「念のために」という管理的発想になるのも否めません。
妊婦さんには一生に一度しかないかもしれない機会を、自分で納得がいく形で進めたいという気持ちを大切にしながら、医療側と信頼を深めながらお産に臨んでもらいたいと切に願っています。
信頼関係はとても大切です。なぜならお産には産婦の精神的な状態が大きく関与するからです。リラックスしてお産に臨めば産道も柔らかくなり、赤ちゃんがスムーズに出やすくなる。ところが医療側に対する不安を抱えたままだと、それはスムーズなお産を妨げる要素になってしまうのです。 妊婦と医療側、双方が信頼関係を築いていくヒントとして妊婦・医師、お産を取り巻く環境が、今どんな状態であるのかをお知らせしていきますから、あなた自身でも、妊娠・お産について疑問に思うこと、知りたいことがあったら、ためらわず尋ねてみてください。医療側からのコメントができると思います。
妊婦さんが何を考え望んでいて、医師や助産婦、看護婦は何を目ざし行動しているのか、お互いの本音がこの場でオープンになることで、出産の環境もいい方向に動いていくのではないでしょうか。
私はそうなってほしいと思います。今後もこの場で考えを発信していきたいので、みなさんもご自身の意見をどしどし発表してください。 私は1人でも多くの妊婦にしあわせなお産をしてもらいたいし、無用な不安からは解放されてほしいと思っています。でも妊婦自身も自分のからだを自分で感じとる感性は磨く必要があるのではないでしょうか。例えばタバコを吸うと自分のからだにどんな変化が起こるかとか、妊娠中自分のお腹にどんな感じがするかなどです。医師が妊婦の立場を配慮して診ることに努める一方、妊婦も医師を信頼し、自分の生活に責任をもって楽しい生活を送ってもらい、極力人の手を加えない、自然の力に添ったお産が実現すれば、と考えています。
(1998.06)