Q.妊娠5ヶ月。顔面神経麻痺になりました。胎児への影響は？

「水痘と同じウイルスが原因と聞きました」とは、噂で聞いたということでしょうか？
主治医から聞いたということでしょうか？（噂はうわさでしかありません）
顔面神経麻痺の原因は不明で免疫性またはウイルスその他の感染による炎症性腫脹による顔面神経の圧迫によると考えられていますが，例えばウイルスの抗体の測定は診断のためには有用ではないとされています。(メルクマニュアル第18版、1991頁)

水痘の原因ウイルスは水痘帯状疱疹ウイルスというのが正式の名前です。
このウイルスも『ヘルペス・ウイルス』と呼ばれることもありますが、性感染症のひとつとして話題になる性器ヘルペスの原因である単純ヘルペスと、同じヘルペスウイルス群に属しますが、別物です。水痘帯状疱疹ウイルスは飛沫感染（空気感染）ですが、単純ヘルペスは接触感染です。

水痘帯状疱疹ウイルスの感染が、妊娠20週前に起こったとき、胎児が先天性水痘症候群になる率は0.4～2.0％ですが、妊娠21週以後は0.0％で、乳児帯状疱疹を発症するものが0.8～1.7％で重症全身感染はないようです。しかし、分娩の前3週間以内に水痘を発症した場合には，生まれた子どもの25～50％が新生児水痘を発症します。しかも分娩前3日から分娩後2日の間に発症した場合には、母親のつくる抗体が胎児・新生児に十分移行しないために新生児の重症感染を起こし死亡率は30％に達すると言われています。

同じウイルスですが妊婦が帯状疱疹を発症している場合はその水泡部に子どもが接触しない限り子どもへの影響はないと考えられています。

※先天性水痘症候群：皮膚の瘢痕、眼球異常(小眼球症,視神経萎縮など)、四肢の低形成、中枢神経系異常(運動・知覚障害,小頭症,水頭症,脳内石灰化など)、低出生体重児など妊婦の水痘：肺炎・脳脊髄膜炎を起こすなど重症化することがある。妊婦の死亡率は2～35％)

【対策】
1）水痘帯状疱疹ウイルスにたいする抗体があれば(抗体陽性率は95％)、経過観察で良い。
2）水痘患者に接触したり，帯状疱疹の水泡部に接触しないようにする。（水痘ワクチンは生ワクチンであるので，妊娠中は接種を行わない！)
3）妊婦が水痘を発症した場合，アシクロビルを投与。（肺炎等の重症合併症を防ぐため）
4）妊娠20週までの感染では、超音波断層法で先天性水痘症候群が無いかを診る。
5）妊娠21週以後は，経過観察で良いが発症後5～7日以後に分娩になるようにする。
6）発症後5日以内の分娩、分娩後2日以内の母親の発症では、直ちに免疫グロブリンを投与し、新生児の全身感染が重症化するのを防ぐ。
7）妊婦の帯状疱疹では、経過観察で良い。産婦人科診療ガイドライン　産科編2008　より

Q、妊娠中や産後直後に顔面神経麻痺になる確率が高いという情報があるのですが、堀口先生はどうお考えでしょうか？

私の50年間の経験の中で、妊娠中や産後直後に顔面神経麻痺として記憶のあるのは3例くらいです。この間に関わりのあった妊婦さんは4万人くらいです。
妊婦さん自身が交通事故に会った人は二人くらい、妊娠中に飛行機事故で夫を亡くされた方は1人でした。