ベビカムトップ
>
加部一彦:子どもの生まれる現場から
> 子どもを「育てる」ということ

子どもを「育てる」ということ

加部一彦:子どもの生まれる現場から

東京でも次第に気温の低い日が多くなってきました。今年ももうすぐ本格的な冬がやって来ることでしょう。ついこの間、新年を迎えたと思っていたのに、気がつけばもう11月です。時間が経つのは本当に早いですね。

時間が経つのも早いですが、子どもたちが大きく成長するのも、本当に早いものです。ついこの前、まだハイハイさえも上手にできなかったのに、気がつけばもうよちよち歩き。歩き始めたと思ったら、たちまち行動範囲が拡がって……。そうなると、もう親の言うことなんて聞きやしません。何を言われても「イヤイヤ」。思い通りにならないとぐずって騒いで、揚げ句の果てに大声で泣きだして…いやはや、「子どもは天使だ」なんて、だれが言ったのでしょうね。

子どもを「育てる」ということがどんなことなのか、なんて、だれも実際に子どもを育てはじめるまでは考えたことはなかった、あるいは、もっと「夢」みたいな生活を思い描いていたのではないでしょうか。しかし、現実の「育児」ときたら……。なぜ、こんなことになってしまうのでしょうね。最近は「子育て支援」だなんて言い方をよく見聞きしますが、子どもを育てるのに、だれかの「支援」が要ったり「マニュアル」が必要だったりなんてことは本来は不必要なはず。なのに、どうしてなのでしょう。

子育ては「文化」だ

今の時代、「子どもを育てる」と言うことは、明らかに一つのリスクを背負うことであると思います。新しい家族を迎え育ててゆくことは、経済的にはモチロン、社会的にも医学的にも明らかに「リスク」です。目の前の赤ちゃんが一体どんな子どもへと成長してゆくのか、それは誰にも予想できませんし、コントロ-ルできないことです。「子どもをキチンと-正しく-育てたい」とは子をもつ親であれば誰もが思うことでしょうが、それが一筋縄では行かないということが日々の子育ての中で実感されるだけに、「育児不安」が拡がっているのではないかと思います。

「育児」は文化です。民族や国によって、また同じ民族でも住んでいるところや時代によっても「育児」は微妙に変化します。核家族化が完成した日本では、育児に関する文化がキチンと伝承されにくくなっています。個人主義が当たり前になった今日、かつては当たり前だった地域の濃厚な人間関係もほとんど失われてしまいました。テレビや新聞を見ても、子どもの虐待や事故など、不安をかき立てる材料にはこと欠かない始末です。こんな社会背景もまた、「育児不安」に拍車をかけているのでしょう。しかし、状況に振り回されてばかりいても仕方がありません。子どもたちは日々成長しているのですから、親もしっかりしなければ……。

育児には「達人」も「名人」も存在しない

さて、「育児」は文化だと言いましたが、「文化」なればこそ、今こそ私たちは21世紀の新しい育児を編み出してゆく必要があるのです。そのために何をしたら……。難しいことを考える必要はありませんが、まず最初にすべきは、「情報」に振り回されることを止めることです。インタ-ネットの普及によって、育児に関する情報も洪水のようにあふれかえっていますが、あふれんばかりの情報に、かえって「不安」をかき立てられてはいませんか。「標準」とか「正常」から外れてしまうことを気にしすぎていませんか。一人ひとりの子どもはみんなユニ-クな存在で、だれ一人として「同じ子ども」は存在しません。何人子どもを育てても、みんな一人ひとりが違う個性なのです。それゆえ、「育児」には「達人」もいなければ「名人」も「神様」も存在しないのです。

子どもを丸ごと受け止めて

まず、自分の目の前にいる「子ども」の存在を、そのまま丸ごと受け止めましょう。子どもの目をまっすぐ見つめて話をしてみて下さい。子どもをギュッと抱きしめてあげて下さい。子どもたちの小さな「自己主張」にも、根気よくつきあってあげてみて下さい。ともすれば、親から怒られたり否定的なことばかり言われてしまいがちな子どもたちを思いっきりほめてあげて下さい。きっと、今までとは違った「子ども」の姿が見えてくるはずです。
人は一人では生きてゆけない存在です。私たちの社会は信頼関係で結ばれています。「子どもを育てる」ということは、自分にもっとも近しい「他人」である我が子との基本的信頼関係を築いてゆく、そんな日常なのではないでしょうか。

リニュ-アル前を含めてこれまでちょうど20回ほど、生まれたての赤ちゃんについて書かせていただいてきました。今回は、一つの区切りとして最近強調される「育児」について考えてみましたが、次回からはまた、赤ちゃんのからだの不思議についてお話ししたいと思います。
いつもの通り、この連載に関するご質問、ご要望を編集部まで遠慮なくお寄せ下さい。

(2002.11)

他のアドバイザーのコラムを読む

レギュラー

ゲスト

powerd by babycome