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2016-04-08T00:00:00+0900 2016.04.08

Q.切迫早産で安静の指示をうけましたが、どこまで安静の意味ってあるの?

切迫早産で安静を指示されました。いろいろ調べていると、日本産婦人科学会が作成している「産婦人科診療ガイドライン―産科編2014」に、「入院安静が切迫早産に有効であるという十分なエビデンスはない」と記載されているのを見つけました。これは、安静にしていても意味がないかもしれない、ということでしょうか? 安静にすることの弊害(筋力低下、仕事や家庭への負担等)の方が大きいのでは、と思ってしまいます。十分なエビデンスがないにも関わらず、安静を指示されるのはなぜでしょうか?


(29歳女性 妊娠30週)

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安静にした場合と、安静にしなかった場合の比較検討の結果が「ランダム化比較試験」の質の高い研究デザインを作るのが難しいために、十分なエビデンスのあるデータがないのです。「十分なエビデンスがない」ということは安静にしなかった場合に早産にならないというエビデンスもないということなのです。
切迫早産と診断する場合の根拠は…
1)子宮の収縮が、「通常よりも強い」あるいは「通常よりも頻繁に繰り返す」場合。
2)子宮口が開いている場合
3)子宮頸管が短縮している場合
4)子宮腟部が軟化している場合
5)胎児の下降部が小骨盤腔内に下がってきている場合
などです。

1)について:「通常の状態」はかなり個人差があります。したがってそれが安静にすることで、治まってくるかどうかの予測は難しいのです。分娩監視装置(「モニター」ともいう)を着ければ、危険な子宮の収縮かどうかわかりそうに思いますが、このような訴えがあるときにモニターをつけても通常よりも強い、あるいは頻繁な収縮がはっきりと認められる場合もあるし、ほとんど収縮曲線が認められない場合もあります(ご本人がお腹の張りを感じていないのに10分ごとぐらいの陣痛開始といってもいいくらいの収縮がある場合もあり、安静にしていると治まってくる例があります)。

2)について:初産婦さんの場合は38週くらいまではあるいは陣痛が始まるまでは、子宮口が閉じており、診察医の指1本も入らない状態が「通常」です。したがって30週くらいで開き始めていると、早産を気をつけようと産科医は思います。指2本入る(4cm前後)ようなら安静を指示すると思います。今まで、閉まっていたものが開いてきたということは、開くような誘因があった(子宮の収縮があった)ことや、本人がそれを意識していないと、今後更に開く可能性を考慮しなければならないので、できるだけ子宮収縮を強くする可能性のあることを避ける(ということは安静にする)のが望ましいと産科医は考えます。ところが、5cmくらい開いていても1ヶ月くらいお産にならない人も、多くはありませんがいるのです。

子宮口が開いていることでの心配のもう1つは、「破水」です。破水すると子宮内の(ということは胎児への)細菌感染を起こしやすくなるので、破水は避けたいと産科医は考えます。また、破水すると陣痛が起こりやすくなり、早産になる可能性が高くなります。

経産婦さんでは、妊娠中期ぐらいから子宮口が開き気味になることが、昔から言われていました。しかし「経産婦さんは早産が多い」という明らかなデータはありません。それで1~2cm開いていても、安静の指示は出ません。でも経産婦さんは、上の子どもに手がかかるため初産婦さんよりも日常生活は安静というわけにはいかないと思います。

3)について:子宮頸管の短縮は、経膣超音波の検査ができるようになって客観的に短縮の度合いを知ることができるようになりました。妊娠していないときの子宮頸管の長さは3cmです。妊娠すると5cmくらいになります。これが2cmになってしまうと、入院かなと思います。では3cmだったらどうでしょうか。やはり医師は安静というでしょう。エビデンスが十分ではないのに安静の指示をしてしまう直接の理由は最後に書きます。

4)について:「柔らかいな、子宮の収縮が強くなったら、子宮口は開いてしまいそうだな」と感じることはあります。通常の妊娠中の子宮腟部の硬さは鼻の頭ぐらいと言われています。これがマシュマロくらいになると、柔らかいなと思います。陣痛が起こりやすい状態かとなると確実にそうとは言えないのです。これが言えたら、陣痛の誘発の成功率はもっと高くなるはずという思いを産科医はもっているのです。

5)について:児の下降部(一番下がってきているところ=頭、お尻、背中、足、手)がどこまで下がっているかというのはとても難しいのです。「今、産道の真ん中あたりまで来ている」というのは、そんなに難しくはないのですが、ここ数日この位置にとどまっているかはわかりません。通常は小骨盤腔より上にいるはずです。しかし胎児が小さかったり骨盤が大きいと、たまたま小骨盤腔にまで来ていることもあります。その原因が子宮の収縮が通常より強かったり、頚管が短縮していたりかもしれません。1)、3)が重なっているかもしれないということです。手や足が下がっていると破水を起こしやしことも考えられます。『エビデンスが十分ではないのに安静の指示をしてしまう直接の理由』は、念のために安静にしてもらおうか、です。早産と結びつく要因は「消しておこう」です。

もう1つ。安静の指示を出さなかった時もし早産になったら、「このような早産につながる可能性があるとされている所見があるにもかかわらず、適切な指示をしなかった」と言われるのは避けたいと思ってしまうのです。

安静にすることの弊害(筋力低下、仕事や家庭への負担等)の方が大きいのでは、という指摘には、確かに、このことを考慮すべきだと思いますが、「~の方が大きい」と言いきれるかどうかの問題があります。

早産になる可能性と筋力低下の可能性がどちらが大きいか早産になってしまうことで被る負担と仕事や家庭への負担とどちらが大きいか、どの程度の安静がどのくらいの期間続くと日常生活に影響するような筋力低下をもたらすか。切迫早産と診断されたのが、28週か30週かでも、安静にしなければならない程度は違うと産科医は考えます。28週だと胎児の肺は生まれてしまっても酸素を取り込む機能がようやく完成されますが、呼吸筋の力が十分かどうかの不安を考えます。30週になれば、わずか2週の差ですが、呼吸機能はずっと成熟してきています。体温維持が少し弱いかもしれないので保育器は必要かもしれません。28週だと「1000gの赤ちゃんの人工呼吸ができる設備と人手のある病院でなければお産は心配」と産科医は考えます。「十分のエビデンスはないのだから、そのような対処法はしなくても良い」とは勧めにくいのです。

前にも書きましたが「早産を防ぐに十分なエビデンスがない」ということは「早産にならないという十分なエビデンスもない」ということだと思うのです。どの程度の安静が必要なのか、日常の生活を振り返ってそれでは早産の危険が高くなる状態か」などを診察した主治医と話し合われると、いい着地点が見つけられるのではないかと思います。

2016-04-08T00:00:00+0900
  • ▼ 堀口 貞夫先生のプロフィール

    • 元愛育病院院長、元東京大学医学部講師。妊婦が安心して、自分が納得のいくお産をするために、のべ4万人という妊・産婦をあたたかく見守ってきた。「妊婦のことを親身になって考えてくれる」と評判が高い。JR四ツ谷駅前の「主婦会館クリニック からだと心の診療室」(主婦会館プラザエフ4F)元院長でもあり、女性のからだと心を両面からサポートしていた。著書に『あなただから だいじょうぶ』(赤ちゃんとママ社)、『改訂版 夫婦で読むセックスの本』(電子出版)など。

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