【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

ゆったり流れるお産と育児時間

  • 2015-06-29 17:05
  • 一般公開
  • テーマ:
仕事と家庭と育児と

20年くらい前から少子化(合計特殊出生率の低下)が問題視されるようになり、その原因と対策についてさまざまな議論が繰り返されています。

女性の社会進出が、普通のことになり、結婚・妊娠・出産の経過で仕事を続ける方も多くなりました。しかし、今までの家庭や社会とのかかわりのなかでの仕事に加えて育児という仕事があるのですから、その場合、1日24時間のなかでの3つの仕事の時間配分が大きな問題であることは確かです。

この場合、育児休業法や保育所の充実など政策や行政で対応できることとは別に、家庭がよりよく機能していくために大切なことは、家庭をもち、子どもをもつ(家族が増える)ことによって増える仕事の量を男性と女性(夫と妻)が、どう分担するかということが解決されなければならないでしょう。男性の仕事についての男性自身の考え方や「男は(社会のなかでの)仕事だけやっていればよい」という社会の考え方が変わる必要があるのではないかと思います。男主導の社会では、社会の考え方は男性の考え方に大きく影響されますから、男性が家庭・家族をどうとらえているかということが、大事ではないでしょうか。

社会は加速しても変わらない妊娠~お産のスピード

お産の現場で感じるのは、家庭を大事にしようとする男性が増えているということです。「優しい男性」と表現されることもありますが、「男は男らしく」することが望ましいのにと揶揄の意味を込めているような気がします。ちょっと今回の主題からそれますが、最近、産婦人科を専門とする医師の不足がいわれるなかで、産婦人科における女性医師の割合の増加が問題視されることがあります。それは家庭を持った女性は自分の労働時間を男性と同じようには、仕事に使うことができないからです。

もう一つ、私たちが抱える問題として大きいのではないかと思うことがあります。近代化が加速されていくなかで、また効率的な仕事が追求されることで、「速いこと」が望ましいこと、言い換えれば短い時間で一つの仕事を仕上げて、効率的に大量に仕事をこなしていくのがよいという方向に変化しつつあることです。

一方、妊娠・出産・育児について、このような生理現象をもたらす相当な部分が明らかになったことは進歩ですが、受精した卵の初期発生から成熟して分娩に至る過程が速く進むようになった訳ではありません。さらに生まれた後の機能的発達や身体的成長も個人差はあるもののそれに必要な時間は変わっていないのです。

お産の場面でいうならば、子宮の出口(頚管)が軟化し、陣痛が始まって頚管の軟化が進行し、子宮口が徐々に開いていく。それとともに胎児が産道の中を自分の身体の軸を中心にして回旋しながら産道を下がって行く。この過程は、それぞれの要因(子宮頚管の固さ、陣痛の強さ、胎児の大きさ、胎児の回旋、そして産道の伸びやすさ等のおよそ5つの要因)の程度に左右されます。この過程を速めるための方法は、子宮頚管を柔らかくする、子宮収縮を強めるなどの技術はありますが、その有効性の検証は他の要因もかかわるために難しいのです。すなわちスピードアップの確実な手立てをもっている訳ではありません。

(2007.08)
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