【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

妊娠初期の血液検査でわかること・後編

  • 2015-06-29 15:00
  • 一般公開
  • テーマ:
今号では、前号から引き続き、妊娠初期の血液検査について、お話します。

B型肝炎の抗原検査

B型肝炎ヴィルスを血液の中に持っているけれども肝炎を発症していない人(キャリアーといいます)が妊娠した場合、分娩時に赤ちゃんを感染させることがあります。これを防ぐ予防処置が必要かどうか、また他人を感染させないための注意を心得ておくために、必要な検査です。

この検査が陽性ということは、血液中にB型肝炎ヴィルスが存在するということです。妊婦さんの血液中のヴィルスが胎盤を通して胎児の血液に移行するということはまれで、分娩中すなわち産道を通っている時に感染は起こりやすいと推定されています。感染の起こる頻度は精密検査でHBe抗原が陽性(プラス)の場合はその81%。HBe抗原が陰性(マイナス)の場合は2.6%です。しかし陽性であった場合でも、抗HB免疫グロブリンとワクチンを新生児に注射することによって、この感染の頻度を6.3%に下げることができます。

この予防処置をやらなかった場合、HBe抗原陽性の妊婦さんから生まれた子どもの84%がキャリアーになり、将来の感染源となることが分っています。

また普通の生活をしている限り一緒に住んでいる家族に感染する心配はありません。しかし、ヴィルスを持った人の血液が、他の人の傷のある皮膚や粘膜に付着しないように注意が必要です。他の人とひげ用のかみそりや歯ブラシを共用するなどは、決してしないでください。一般的にキスや性交で感染することはありません。

C型肝炎ヴィルスの抗体検査

キャリアーになった場合、20〜30年の経過で慢性肝炎から、将来、肝硬変や肝臓癌になる可能性があります。そのために、この検査が陽性だった場合、他人に感染させやすい状態かどうかを、きちんと検査(肝機能検査とHCV-RNA定量検査)をしておきます。HCV-RNA定量検査が陽性の場合の母子感染率は約10%です。

ATL(成人型T細胞白血病)

Tリンパ球に感染するヒトT細胞白血病ウイルスによる白血病で、母乳を介して感染し、発病のピークは50〜60歳、生涯のうちに発症する率は3〜7%くらいです。この間は無症候性持続感染者(キャリアー)で、抗ATL抗体が生産されています。

抗体が陽性の場合には、(1)人工栄養にする、(2)一度冷凍した母乳を与える、(3)生後3ヶ月の間母乳を与える、などの方法がとられます。長期母乳栄養保育した赤ちゃんへの感染率は15〜40%で、発症率も高くなく、沖縄・九州では感染率が高いという地域性が強かったが、最近は他地域にも増えてきたので必須の検査とされました。

以下の検査はエビデンスレベルBであり、かなわず行わなければならない検査ではありませんが、検査することを勧められています。

サイトメガロヴィルス抗体検査

サイトメガロヴィルスとは、ヘルペスヴィルス科に属するDNAヴィルス。日本における抗体保有率は96%でしたが、最近は70%くらいに下がってきています。妊娠中の10ヶ月間に感染する確率(妊娠中の初感染率)は、0.16〜0.64%ですが、妊娠中に感染する可能性が少しずつ高くなり、子宮内感染による胎児の先天性サイトメガロウイルス感染症(先天性巨細胞封入体症)の増加が懸念されています。CMVの感染は乳幼児からの水平・飛沫感染が多いので、年長児がいる場合にはその尿や唾液へ接触を避けること、手洗いの励行が感染予防に役立ちます。妊娠中の初感染での胎児への感染率は18%くらいですが、胎児に感染すると、難聴、知能低下、小頭症、痙攣などが見られます。その発症率は4.7〜8.3%とされ、それほど高いものではありません。

トキソプラスマ抗体検査

トキソプラスマは犬や猫、鳥などに寄生する原虫で、ペットの排泄物やブタの生肉から人間に感染することがあります。日本における抗体保有率は7.1%と低く、妊娠中に初めてトキソプラスマ原虫が感染する(初感染率は0.13%)と、胎盤を通じて赤ちゃんにも感染し(感染率は約30%で、そのうち13〜30%が発症)、流産や早産、また脈絡網膜炎、水頭症、小頭症、頭蓋内石灰化を起こし、精神運動障害や視覚聴覚障害、痙攣などの後遺症が残ります。妊婦の初感染が診断された時には抗生物質のスピラマイシンを使用します。

クラミジア抗体検査

子宮頸管分泌物をとり、ELISA法、DNA法、PCR・LCR法などによりクラミジアの存在の有無を調べます(この検査は血液の抗体検査ではなく、クラミジアが存在するかどうかを調べる抗原検査です)

クラミジアは現在、性感染症の中でもっとも感染率が高く、20%に近いという報告もあります。潜伏期は2〜3週間、再感染もあり注意が必要です。

症状がほとんどないにもかかわらず、妊娠中は流産、早産、破水の原因となり、胎児に産道感染を起こした場合は、結膜炎、肺炎を起こすことがあります。抗生物質(アジスロマイシン1000mg1回、クラリスロマイシン200mg/日7日間)を投与すると治癒しますが、性交で感染するので、パートナーも必ず同時に治療しないと再感染の原因になります。治療後3〜4週間後に子宮頸管分泌物の検査を行い治癒を確認します。

(2000.8)
いいね
もっと見る

コメント

    みんなのコメントをもっと見る
    powerd by babycome