【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

赤ちゃんを生むのは分娩室?それともLDR?

  • 2015-06-29 14:30
  • 一般公開
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戦後、施設分娩が急増

終戦直後の1959年には施設内(病産院・診療所・助産所)の分娩はわずか4・6%で大部分(95・4%)は自宅分娩でした。陣痛が始まってから分娩が終わって、床上げするまで同じ部屋で過ごし、家族や近所の人たちに囲まれてのお産だったのです。

60年には施設分娩が50%を越え、さらに90年には施設分娩は99・9%となり、この間の妊産婦死亡・新生児死亡・周産期死亡の割合は表を見てわかるとおり、大きく改善されました。施設分娩率の増加と平行して、妊産婦と胎児の病態生理的な情報が得られるようになり、分娩の安全性が高まったのですが、そのために医療が介入する機会が多くなったのも事実です。

「感染の危険を少なくする」「外科手術と同じような医学的管理を行う」「プロフェッショナルな看護を行う」などを理由として、産婦は家族から切り離されて行ったのです。

LDRの誕生

しかし、この安全性を手にしたからこそ、もう一度この安全性に守られた生命の誕生を大切にし、生命体の持っている力に生命の誕生を委ねようとする考え方が生まれて来ました。同時に分娩をスムースに進めるには不安や緊張を取ることが大切であり、そのためにラマーズ法、あるいは夫や分娩介助者がずっと付き添うことも意味のあることと強調されるようになりました。そして分娩の場所も、清潔であるけれども冷たい病院らしさを取り除いて、家具や内装を家庭的な感じにすることによって産婦の精神的緊張を除き、分娩に集中できるようにすることが望ましいと考えられるようになって来ました。

リスクを持たないと考えられる妊婦であっても、破水後なかなか陣痛が始まらず分娩が遷延したり、陣痛が弱い・回旋異常などのために分娩時間が長引いたり、胎児仮死の症状が現れたり、正常分娩の後に弛緩出血を起こしたりなどのさまざまな異常を起こすことがあります。愛育病院で94年に生まれた1344例について私が調べたところ、妊娠前および妊娠中の異常がなかった妊婦1951例のうち、上に述べたような異常を起こしたものは17・7%(186例)でした。これらの異常例は積極的かつ迅速な医療的対応を必要とするものです

そこで、従来型の分娩施設の中にリラックスして分娩することのできる環境を作ることを目的として考えられたのが、LDR(Labour,Delivery and Recovery Room=陣痛開始してから分娩後数時間~48時間までを移動せずに過せる部屋)なのです。

しかしこのような基本的コンセプトがないと、LDRを作っても「産婦を動かさないで済むけれども医療側の人手がかかるというだけのもの」になってしまいます。運営面からは、これだけの隔離された部屋の中で進行していく分娩の安全性を確保するには、それだけ多くの人手を必要とすることになるのです。

分娩場所を選ぶポイント

リスクを持たない産婦であっても最後まで危険が発生しないという保証はありません。従来型の分娩施設であろうとLDR型の施設であろうと、また自宅であろうと、お産をする人と援助する医療者側がお産をどう考え、出産援助のやり方をどう考えるかということが大切なのであって、感染や出血その他の救急への対応はどちらでもできなければならないことがお分かりになると思います。それぞれの分娩場所の差は、痛みの最中に移動しなければならないかどうか、気分的に楽に家族と過ごすことができるか、そして医療側が危険を予測して、より高いレベルの医療施設へ早めに転送するなどの方法により安全を確保できるか、ということになるのではないかと思います。これが分娩場所を選ぶ時の大切なポイントです

(1999.06)
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