小学館 保育ネット
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第55回「わたしの保育記録」佳作

そらいろえん(沖縄・読谷市)  山本 真紀

「命を考える」から学んでいく姿(一般部門)

迷子犬の飼い主探し

迷子犬の飼い主探し

 そらいろえんは、沖縄の海沿いにある小さな保育園だ。一歳半から就学前の子どもたち二十名が兄弟のように過ごしている。沖縄の大自然を生かした保育をしたいと一年の三分の二が真夏という環境で一日の半分を散歩に費やしている。

 この日の散歩は近所のグランド。遊んで帰るころ、五歳のR君が大きな声で「ガリガリのやせてる犬がいるよー」と教えてくれた。茶色の柴犬に似た犬だった。

 R君の家は犬を飼っているので怖がらずになで始め、Y君もD君も「かわいいね」と自分の水筒の水をあげ始めた。おやつの時間に帰ろうとするとY君が、「犬がついてくる!」「かわいい!飼ってもいい?」「ガリガリだからご飯あげてもいい?」。

 子どもたちはこの犬の魅力にメロメロだった。

 犬を飼ったことのない私は正直困ったが犬が着いて来てしまうのでひとまず園につれて帰った。不思議な犬でとてもおとなしく子どもたちには全く吠えなかった。

 また、お行儀も良く、デッキに登らないよ。部屋にも着いてこないよ。と、話すとちゃんと聞いてくれた。

「この犬おりこうだね」

 はじめは、怖がって近づかなかった小さな子どもたちも撫でたりするようになり、不思議な犬だな。子どもたちにも危害を加えないし飼うことも縁なのかもかもしれないと思うようになった。

 黄色い首輪を付けていたので誰かに飼われていた事を子どもたちに話すと「オウチに帰りたいんじゃない? 飼い主を探してあげよう」と子ども会議で決まった。

「オウチを探すのにどうしたらいい?」と、問いかけると、おとなしい五歳のU君が「スーパーに飼い主を探しています。って張り紙があったよ」。

 活発な5歳のM君が「警察は? 迷子は警察でしょ?」。

 犬好きの5歳のR君は「どんな方法があるかお母さんに聞いてみるよ」。

 子どもたちも色々な方法を思いつけるなぁと感心した。

 まず、警察に電話をかけた。次にスーパーに貼るチラシをみんなで作成した。

『かいぬしをさがしています。きいろいくびわをしています。ひとがだいすきです。』

 まだ、字を習っていない5歳の3人が手分けをして私が書いた字を真似して、自分達で書いた。

 はじめての試みで何度も書き直し、消したり、捨てたりしながら、チラシは完成した。私は、字を『誰かに伝えたいから書く』だから『学びたい!』という気持ちから文字を子どもたちが書くのだなと改めて気づかされた。

「コピーしてくるからみんながお母さんやお父さんに頼んでスーパーなどに貼ってね」と言うと自分の口からしっかり説明して3歳児の子ども達まで頼んでいて貼ってもらえた。

 保護者もすぐ反応してくれてありがたかった。

迷子犬「にじ」とうさぎ小屋

迷子犬「にじ」とうさぎ小屋

 飼い主が見つかるまで飼うのに名前を付ける事にした。

「虹が出ている日に出会ったからにじって名前にしようよ」

と、子どもたち。たくさんの候補の中からこの名前は全員一致で決まった。

 子どもには吠えないにじだったが、ひとつ困った事があった。園で飼っているうさぎにはメチャ吠えるのだった。これだけは、教えてもダメで子どもたちにも「犬の本能なのかもしれないからうさぎ小屋のほうにお散歩させないように気をつけてね。にじがうさぎにとびついたらいやでしょう」と話した。

 R君がお母さんから『犬の譲渡会』があることを教えてもらってきた。迷い犬たちの飼い主を見つける会だ。R君のお母さんも参加したことがある会なので安心だ。

 動物病院の先生にも診てもらい、健康なことが分かった。モリモリご飯を食べ、はげていた毛並みもそろって太ってきた。

 こんな時に事件が起きた。

 うさぎ当番の子どもたちが泣いていた。

「うさぎの赤ちゃんが死んじゃった…」

 うさぎ小屋の中の暗い隅にうさぎの毛で作ったベットがあった。これは、出産の為の準備だったのだ。うさぎはおなかが膨らんだりしないので初めてうさぎの出産に出会った私達には見抜けなかったのだ。うさぎは死んだ子を巣から出すようで小屋の入り口の辺りに赤ちゃんうさぎが横たわっていたと言うのだ。

にじの命、うさぎの命

 これには全員がショックを受けて子ども会議が始まった。

「にじが近づかないようにちゃんとやってたよね」

「赤ちゃんだから始めににじが吠えた時に怖くて死んじゃったんじゃないかな」

「うさぎってたくさん赤ちゃん産むって本に書いてあった。まだ赤ちゃんいるかもしれない」

「全部、死んじゃったらかわいそう」

「でも、にじはどうする? にじも生きてる」

「うさぎは自分達で決めてパン屋さんで貰って飼ったんだからやっぱり、にじは新しい飼い主を探そうよ」

「そうだよ。にじに優しい飼い主を探したらにじの命もうさぎの命も守れるんじゃない」

 子どもたちは、冷静に両方の命を守ろうと話し合いをした。子どもたちでもこんなに深く話し合いが出来ることに驚いた。

 この話の前に、迷い犬をそのまま放置していると『処分』されることを近所の公民館の職員から張り紙を貼る時に子どもたちは聞いたのだった。

「保健所に連れて行かれると処分されちゃうからこの犬は良かったね」と言われたひと言が子どもたちの中によみがえったようだ。

「譲渡会で飼ってくれる人を探そう」

「お母さんが迷子の犬を飼える人をネットで探せるって言ってたから聞いてみる」

 こうして、自分たちなりの選択を考えたこの行動は、近所の小学生の子どもたちにも影響を与え、「かわいそうな犬がいます。早く飼い主を見つけないと保健所に行くかもしれません」と小学生が張り紙を作り、電信柱に貼ってくれた。

小学生たちの協力

 譲渡会は日曜日だったのと、子どもたちを連れて行ける交通機関が確保できなかったので代表で近所の小学生の中で3人が行く事に決まった。

 にじは不思議な犬で譲渡会では、いつもは大人しいにじが吠えまくりだれも飼い主にはなってくれなかった。帰り道はまた大人しいにじに戻っていた。

「にじは、そらいろえんの子どもか私達(小学生)に飼ってもらいたいんだね」と小学生が車の中で話していた。

 次の日に子どもたちに飼い主が見つからなかった話をすると「飼い主が見つからないのは残念だけどにじが遠くに行くのはいやだなぁ」と泣きそうな子どもたち。

 にじを飼う事でご飯は何を食べるかな? と自分のお弁当をあげる子や、散歩をするといううさぎとは違う世話の仕方にも出会えた。そして、顔を覚えて愛嬌を振りまいたり、『おすわり』『まて』をしつけたりは子どもにとって『犬の成長』という新しい出会いだった。成長していく姿は子どもたちにもとても楽しい毎日をくれたのだろう。

 そんな時、千葉県から飼い主になりたいとメールが届いた。子どもたちは悩んだ。

「犬って飛行機乗れるの?」と、子どもたち。

「お荷物みたいに運ばれるんですって」と、私が飛行機で送られる様子を説明。

「じゃあ、人間は着いていかないの? ちょっと怖そう」と子ども。

「そうだね。自分が荷物みたいに運ばれたらイヤだよね。でも、飼い主が他に見つからなかったら仕方ないかなぁ。もう少し飼い主を探してみましょう」と私もこれにはかなり悩んだ。

 実は、この時に2匹目のうさぎの赤ちゃんが死んでいるのを発見した。やはり、同じ敷地内に犬がいるのが怖いのかもしれないと子どもたちも心配していた。

 今日も夕方学校帰りの小学生が「飼い主見つかった?」とやってきた。

 子どもたちは、我先にと赤ちゃんうさぎがまた死んでしまった事、もう、飛行機でお荷物みたいににじを千葉県に送らなきゃいけないかもしれないことを話した。

「私、もう一回お父さんとお母さんに話してみるよ」小学生はそう言って帰っていった。

 そして、次の日。「飼っていいって!」と、とびきりの笑顔で現れた小学生。牧師のお父さんが毎日神に祈っている娘と息子に根負けしたらしい。子どもたちも大喜びだった。

「散歩したらみんなに会いに来るからね。さびしくないよ」

『命を負うという責任』

 にじに家が出来た。二つの命に悩み、両方の命を生かす方法を考え、行動していった子どもたち。楽しいから、可愛いから飼うだけでなく『命を負うという責任』を感じ、真剣に考え、行動していった子どもの力に驚いた。

 そして、知らない内に周りに影響を与えていく力。その力が小学生の心を動かし無事に飼い主を見つけた事に繋がったと思う。諦めないで熱い気持ちで伝えることで出来ることがある。そんな気持ちを持ち行動した子どもたちは素晴らしいと思った。

『命を負うという責任』

受賞のことば

受賞者の写真

 認可園から自主保育を始めたので世間の厳しさを実感しました。ですが、保育は丁寧に続けています。それが、このように素敵な先生方に認めていただけたのだと思うと報われる思いでいっぱいです。

 カリキュラムはなく、こどもの発想や言葉で日々の暮らしが変わっていく、こども中心の保育をしています。子どもたちは次から次へとアイデアを出し、見知らぬ世界に遊びこんでいきます。そんな保育に可能性を感じ人間って素晴らしいなぁー!と、つくづく思います。

 そんなステキな子どもたちとの生活がもっと続くように賞金で園舎を改築する資金にさせていただきます。素晴らしい賞を2度も受賞させていたきありがとうございました。

講評

「命を考える」から学んでいく姿を読んで

 子どもたちの発達は、生活を通してこそ可能になります。それは日々の体験を積み重ねながらいろいろな学びを獲得していく過程・即ちそれが「保育」であることをこの実践はしっかりと語ってくれます。

 散歩の際、偶然出会ったやせた犬をめぐって、異年齢の子どもたちが、それぞれに自分の思いを語り合い、園に連れて帰り、飼い主を探すことになります。体験を通しての保育は、一人一人の子どもたちの生活が基盤になってこそ成立します。それは個人差を重視した保育でもあります。一人一人が家に帰って親と相談するなど、自分の体、手、足、頭を使って様々な体験をしながら「命を大切にすること」を学びとっていきます。園で飼っていたウサギとガリガリ犬の関係が、また子どもたちに難題を与えることになりますが、そうした課題をも子どもたちの考えを出し合って見事に乗り越えていくところが感動的です。


「子どもとことば研究会」代表 今井和子


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